『仕事のできる人がやっている減らす習慣』
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【毎日書評】1日にやるべきタスクは6つに絞る。仕事のムダを減らす習慣とは
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『仕事のできる人がやっている 減らす習慣』(中村一也 著、フォレスト出版)の著者は、大学卒業後に就職した大手金融機関で仕事に追われるなかで実感したことがあるのだそうです。
それは、「仕事をどれだけ速くできるようになっても、仕事は終わらない」という事実。なぜなら“その仕事”が終わったとしても、その先には“次の仕事”が待っているから。そのため、「成果や評価をあげながら、余裕を持って仕事を終わらせ自分の時間を増やす」ことは、現実的にとても難しいというわけです。
そこで重要なのは、「仕事を速くする」ではなく、「仕事を減らす」という観点を持つこと。仕事をスピーディーにこなすというアプローチではなく、そもそものやることを「減らす」という思考・習慣を手に入れるべきだということです。
もちろん仕事の量は、会社や上司の裁量によって変わるものであり、仕事そのものを減らすことは困難かもしれません。しかしそれでも、次のようなことは可能であるはず。
・思考のムダを減らす
・作業のムダを減らす
・ミスによるやり直しを減らす
・自分で対応しなければならないことを減らす
(「はじめに」より)
他にもいろいろあるでしょうが、本当の意味で「仕事ができる人」は、こうした「減らす習慣」を持っているものだということ。たしかにそうすれば、やるべきことを減らすことができ、ひとつひとつの仕事の質を上げていくことができるはずです。
こうした考え方を念頭に置いたうえで、きょうは第3章「作業のムダを減らす」のなかから、「きょうやることは『6つ』に絞る」というトピックを抜き出してみたいと思います。
マルチタスクとシングルタスク、生産性が高いのはどっち?
いうまでもなくマルチタスクとは、複数の作業を同時に行うこと、もしくは短期間に仕事を切り替えることを意味します。対するシングルタスクは、できる限りひとつの仕事に集中して取り組むこと。
これらについて多くの論文で証明されているのが、「マルチタスクで生産性が落ちる」ということだそうです。
たとえば、ミシガン大学のデヴィッド・マイヤーとアメリカの運輸保安庁のジョシュア・ルービンシュタインらが行った調査では、マルチタスクを行うことで40%の生産性低下が認められる場合がありました。同様に、スタンフォード大学のクリフォード・ナスによる研究でも、マルチタスクの弊害が指摘されています。マルチタスクの悪影響を示した論文は、非常に多く存在しているのが現実です。(103ページより)
では、なぜマルチタスクで生産性が落ちるのでしょうか?
この疑問に関していえば、直感的に理解しやすいのが「ながら運転」「ながらスマホ」。たとえば車を運転しながらスマートフォンを操作したのであれば、しっかり運転することはできません。2つのことを同時に行うことによって、そのどちらもが中途半端になってしまうからこそ、スマホ操作時の事故も起こりやすいわけです。
同じ理由から、頻繁に仕事を切り替えることも推奨できないと著者はいいます。なぜなら、仕事を切り替えることにはコスト(段取りのための作業・時間)がかかるから。
「この仕事を行うには、このソフトを立ち上げ、あの資料を用意して」のように、ある仕事に取り組むためには準備が必要です。
したがって、多くの研究者はシングルタスク(1つの仕事に集中して取り組むこと)の重要性を指摘しています。コーネル大学のデボラ・ザックにいたっては、マルチタスクの弊害とシングルタスクの重要性を徹底的に論じた『SINGLE TASK』(ダイヤモンド社)という本すら出版しています。(104ページより)
こうしたことから、「仕事をする際にはタスクの切り替え回数が少ないほうがよい」ということがわかるわけです。とはいえ、「一日にひとつの仕事しかしない」というのは現実的ではありません。では、一日のタスク数をどうやって決めればいいのでしょうか?(102ページより)
ピックスリーとアイビー・リー・メソッド
一日にやるべきことをいくつに絞るべきかについて、有名なメソッドには次の2つがあるそうです。
① ピックスリー:一日にやるべきことを3つに絞る
② アイビー・リー・メソッド:一日にやるべきことを6つに絞る
(105ページより)
前者はFacebook創設者のマーク・ザッカーバーグの姉であるランディ・ザッカーバーグが提唱したもの。後者は、経営コンサルタントのアイビー・リーによるもので、100年以上使われている歴史があるのだそうです。
シングルタスクの考え方でいえば、一日にやるべきことは少ないほうがいいということになるでしょう。そのため、一見すればピックスリーのほうがよさそうにも思えます。
ただ、ここで注意すべきは私たちの集中力がどれくらい持続できるのか、という点です。集中力の持続時間に関しても多くの研究がすでに行われており、約15分、40分、はたまた数秒というものがあり、多くの研究の結論では、おおむね「1時間以内」となっています。たとえば、ミス防止の科学の分野で有名なノーマン・マックワースの実験では、注意力を保てるのは約30分とわかっています。(105〜106ページより)
多くの方は一日8時間以上働いているでしょうし、人間の集中力が1時間も持たないのだとすれば、ピックスリーが提唱する「一日にやるべきことを3つ」は少なすぎるかもしれません。
一方、アイビー・リー・メソッドのように一日にやることを6つとした場合、ひとつのことに費やす時間は1時間と少し。人間の集中力の時速時間と適合しています。こうした理由から、著者は「一日にやることを6つに絞る」ことをすすめているのです。(104ページより)
減らす習慣を持つことで、必然的に脳の負担も減り、思考もシンプルかつ明快になっていくものだと著者は述べています。仕事に臨むうえで、なによりも大きな価値を持つのは「時間」だからこそ、本書を参考にしてみるべきかもしれません。
Source: フォレスト出版