『センス0からの資料作成術』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【毎日書評】センス不要。見やすいプレゼン資料をつくるヒントは「デザイン心理学」にあり
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『世界最先端のデザイン心理学に基づく センス0からの資料作成術』(日比野治雄 著、あさ出版)は、「相手によい印象を与える資料作成(おもにプレゼンを想定)」の方法をデザイン心理学の視点から解説した書籍。
デザイン心理学とは聞きなれないことばですが、科学的な実験や調査などを通して見やすい(使いやすい)デザインを追求する学問であるそう。
たとえば日常生活において、「なんとなく」「衝動的に」といった論理的には説明できない理由で商品やサービスを購入してしまったという経験は誰にでもあるはず。そうした行動の背景には無意識レベルでの判断があり、その製品やサービスのデザインが大きく関わっていることがわかっているというのです。
デザイン心理学は、こうした人の直感や潜在意識を科学的に数値化して解き明かすことに役立てられています。
事実、私はデザイン心理学で得た知見に基づく方法論を活用し、多くの大企業や公的機関に対するコンサルティング業務を行ってきました。(「はじめに」より)
照明デザインや音響デザインによる快適な空間の設計、識別性に優れ取り違えの起こりにくい医薬品パッケージデザインなど、デザイン心理学が応用できることは多種多様。そのひとつが、本書で取り上げられている「プレゼンテーションにおける資料作成」だというわけです。
本書に掲載した知識やテクニックは一生モノとなるはずです。デザイン心理学の知見は人間の本質に関わるものですので、一時的な流行や思想には影響を受けない普遍性を有しているからです。(「はじめに」より)
こうした考え方を軸に書かれた本書の第1章「デザイン心理学をプレゼン資料に応用する」のなかから、基本的な考え方を抜き出してみましょう。
見やすい資料デザイン=センスではない
時間をかけて資料を準備したにもかかわらず、なぜか「わかりづらい」といわれてしまった――。そんな経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、アイデアが浮かばなかったり、「センスがないから」と悩んでいるというケースも考えられそうです。
しかし、見やすいデザインの資料をつくるために、センスは決して必要ではないのだと著者は述べています。それは、科学的な法則に従ってつくれることが証明されているのだとも。
・タイトルと本文の文字の大きさの最適な比率
・本能的に心地よい箇条書きの作り方
・科学的に適切なプレゼン資料の分量
・聞き手に不安を与えないちょっとした仕掛け
・簡単なのに聞き手に伝わる図表の作り方
(12〜13ページより)
生まれ持った感覚やセンスに頼らなくとも、上記のような“誰でも判断できる法則”を使えば、「見やすい資料デザイン」を実現することは可能だということ。
デザイン心理学は、デザインと科学を融合させた学問。科学的なアプローチによってデザインの法則を発見し、社会的に活用するために役立てられているのだそうです。
ちなみに、デザイン心理学を資料デザインに用いる効果は以下のとおり。
① 伝えたいことを簡潔にまとめられる
② レイアウトや文章表現に工夫を凝らせる
③ 聞き手・読み手の行動をそっと後押しする
(13ページより)
デザインが苦手な人ほど、伝えたい内容を資料のなかに詰め込んでしまいがち。しかしデザイン心理学の原理・原則を学べば、最小限の時間と労力で“聞き手に伝わる資料”をつくれるようになるのだといいます。
またデザイン心理学では、他にもさまざまな法則が明らかになっているようです。それらを資料デザインに取り入れることで、上記の②を実現できるわけです。
個人のセンスに頼ることなく、誰もがシチュエーションや資料テーマに合った効果的な方法を用いることができるということ。
なお③は、「ナッジ」という考え方に基づいたメリット。デザイン心理学は「そっと背中を押す」という意味を持つナッジを重視する学問で、すなわち他人に強制するのではなく、こちらが意図する行動を“それとなく仕向ける”理論であるということです。(12ページより)
不確かなデザインと確かな心理学を掛け合わせる
しかし、そもそもなぜ心理学なのでしょうか? この疑問に対し、著者は次のように答えています。
心理学は人間のあらゆる行動を対象とする学問領域だからです。一般的に心理学は、記憶、学習、思考といった目で直接見ることのできない精神的な活動を扱うように思われています。しかし、実は目に見える行動も含めた、あらゆる人間の活動を探求対象としています。
一方でデザインはまさに人間の行動に直結している領域ですので、心理学×デザインの組み合わせはとても親和性が高いというわけです。(16ページより)
たしかにこれまで、デザインは“科学とは相容れない感性的なもの”だと認識されていたのではないでしょうか。しかし近年では、調査や実験などを通じてエビデンスを得たデザインの重要性が理解され、「エビデンス・ベースドデザイン(evidence-based design:科学的根拠に基づいたデザイン)」と呼ばれるようになっているのだそうです。
「優れたデザイン」と聞くと、「自分はデザイナーではないので、優れたデザインのビジネス資料などつくれそうにない」と思われる方もいるかもしれません。しかし著者は、本書で紹介されているデザイン心理学を応用すれば、優れたデザインのビジネス資料を誰でもつくれるようになると断言しています。(15ページより)
著者は、旧紙幣の判別性評価プロジェクトにも参画したという経歴の持ち主。その成果は、先ごろ発行された新紙幣のデザインにも生かされているのだそうです。そうした多彩なバックグラウンドに基づく本書は、資料作成のスキルを上げるために大きく役立ってくれることでしょう。
Source: あさ出版