『結局、人生最後に残る趣味は何か』
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『結局、人生最後に残る趣味は何か』林望著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
世人の「趣味」というものに、かねて若干の羨望を禁じ得ない。講義と読書と著述、そして会合・社交の毎日、およそ無趣味の暮らしだからであろうか。
そんな関心から手にした本書は、著名な「趣味人」の趣味遍歴。声楽・楽器・俳句・書道・絵画・能楽・収集(コレクション)・料理……、音感もなければ絵心にも乏しい評者からすれば、多(た)藝(げい)多才の著者は異次元の存在、とてもマネできない。
しかしそこで放擲(ほうてき)すべからず。趣味はあくまで個人本位だから、自分のことしか語れない。さもなくば、それは趣味ではなく、ただの流行便乗であって、世人は往々にして履き違える。
「自己実現」のため「適性」と実践こそ重要。自身の意思・性向に正直に、打ち込みたいことに打ち込み、今を大切にして時間管理を怠らない。
それなら嗜(たしな)みは異次元でも、過ごす日常は同じ、評者もれっきとした「趣味人」ではないか。いわゆる「仕事」でない趣味との境界がはっきりしないだけ。
希代の「趣味人」に教わった。充実した自分の時間を納得して送りたいなら、一読参考に値する。(草思社、1870円)