『一度読んだら絶対に忘れないビジネス英語の教科書』
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【毎日書評】「話す力」「聞く力」「書く力」「読む力」が同時にアップするビジネス英語学習法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『一度読んだら絶対に忘れないビジネス英語の教科書』(牧野智一 著、SBクリエイティブ)の著者は30年にわたり、英語の通訳の仕事に携わっている人物。大学や英語スクールの講師としても活動してきたようですが、そんななかで気づいたことがあるのだといいます。
それは、日本のビジネスパーソンの多くが「ビジネス英語=ネイティブのビジネスパーソンが使っている英語」だと誤解しているという事実。
しかし実際には、ビジネス英語を使う相手の大半がノンネイティブだというのです。また、ネイティブが使う単語や表現をまじめに暗記しようとしているのは、日本人くらいでもあるようです。
つまり、そうした実感があるからこそ、「“本当に使えるビジネス英語”を習得するために大切なのは、グローバルスタンダードのビジネス英語を勉強すること」だと強く訴えることができるのでしょう。
私が考えるグローバルスタンダードのビジネス英語とは、英語ネイティブとノンネイティブの両方が使うことを前提にした「誰からも誤解されない英語」です。グローバルスタンダードのビジネス英語を身につければ、非ネイティブはもちろん、ネイティブとも問題なくコミュニケーションをとることができます。(「はじめに 世界のビジネス英語の勉強は間違いだらけ!」より)
ポイントは2つあり、まず最初が基本的な単語や文法で構成したシンプルな英語を使うこと。単語や文法は、中学レベルで9割カバーできるというのです。そしてもうひとつが、基本的な単語や文法に含まれるニュアンスをきちんと理解すること。ニュアンスの違いに応じて単語や文法を使い分けることが、ビジネス英語では大きな意味を持つわけです。
しかし、そもそも「ビジネス英語」と「ネイティブの英語」はどう違い、なにが大切なのでしょうか? その点を明らかにするために、きょうは「ホームルーム」というパートのなかから要点を抜き出してみたいと思います。
「ネイティブの単語や文法」ではなく、「誰でもわかる単語や文法」で文をつくる
著者の考える「誰からも誤解されない英語」には、2つのポイントがあるのだといいます。まず1つ目は、「シンプルな英語」を使うこと。難しい日本語の文をそのまま英語になおすと難解な文になってしまいがちですが、それでは相手が理解できない可能性があるわけです。そこで翻訳者が使っているのが、ダウン・トランスレーティングという技術。
ダウントランスレーティングを簡単に言うと、「わかりやすい日本語に直す」ということです。頭に浮かんだ難しい日本語の文をそのまま難しい英文にするのではなく、一度簡単な日本語に直してから英語に訳すのです。(16ページより)
たとえば「試行錯誤の結果、この製品が生まれた」ということを伝えようとするときには、「『試行錯誤』『〜の結果』って、なんていえばいいんだっけ? 『〜が生まれた』は受動態かな?」などと慌ててしまうかもしれません。でも、簡単な日本語の文になおしてしまえばいいというのです。
たしかに、「何度も試してみて、この製品をつくった」という日本語であれば、We tried many times and we made this product.という英文を簡単につくれます。そこからもわかるように、「シンプルな英語に難しい単語や英文法は不要だ」ということです。(16ページより)
ビジネス英語で重要なのは「ニュアンス」
「誤解されない英語」の2つ目のポイントは、文法や単語に含まれるニュアンスを理解すること。しかも文法や単語は決してネイティブが使う高度なものではなく、学校で習うレベルの基本的なものだといいます。
たとえば学生時代に習った過去形と現在完了形、この2つはニュアンスが大きく異なるのだそうです。以下の会話を見てみましょう。上司(A)が部下(B)にプロジェクトの進捗状況を尋ねている場面です。
A: How is your project?
(プロジェクトの進捗状況はどう?)
B: We have done the test 1 of the new product.
(新製品のテスト1まで終わりました)
(18ページより)
現在完了形で答えることによって、「現時点でテスト1まで終わり、次の段階に進んでいます」というニュアンスが出るわけです。なお、この際、We did the test 1 of the new product.と、過去形で表現しても間違いではないようです。
ただし過去形を使うと、「テスト1までやったけれど、あとのことについては自分は知らない」という、相手を少し突き放したニュアンスになってしまうそう。過去形と現在完了形は些細な違いのように思えますが、英語ではニュアンスが大きく異なるのです。
もうひとつの例文を見てみましょう。
I look forward to hearing from you.
(お返事をお待ちしております。)
(19ページより)
この場合、「look forward toは、be looking forward toという進行形を使ったほうがよいのでは?」と思われるかもしれませんし、たしかに学校ではlook forward toについてI’m looking forward to seeing you.(お会いできるのを楽しみにしております)という例文をセットで習うことが多いでしょう。
ところが「返事を待つ」という文で進行形にすると、「返事をずっと待っている」というニュアンスになり、相手に返事を急かす印象を与えてしまうというのです。そのため、現在形を使うほうがよいということ。「会うのを楽しみにしている」という分の場合は、進行形にすることで「ずっと楽しみにしている(とても楽しみにしている)」というニュアンスにはるので問題ないようです。
なお日本のビジネスパーソンは「早急に検討致します」という日本語表現をよく使いますが、We will discuss it immediately.(早急に検討致します)という表現は外国人には誤解されやすいので避けるべき。「早急に」を意味するimmediatelyは、相手に「本日中に」と解釈されてしまうというのです。
そこで、We will answer you by next Wednesday.(次の水曜にまでに結論をお伝えします)というように、期限を伝えることが大切だといいます。(18ページより)
重要なのは、「1:スピーキング→2:リスニング→3:リーディング→4:ライティング」という順序で学ぶこと。そう主張する著者は、以後の章でこれら4つの力をわかりやすく解説しています。短期間で効率よく能力を高めるために、活用してみてはいかがでしょうか。
Source: SBクリエイティブ