「人生の物語」が詰まった本屋 9つの外国語専門書店インタビュー集

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外国語を届ける書店

『外国語を届ける書店』

著者
白水社編集部 [編集]
出版社
白水社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784560091388
発売日
2024/10/22
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「人生の物語」が詰まった本屋 9つの外国語専門書店インタビュー集

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 本はネットで買える時代。外国で出版された本を個人で買うことも、それほど困難ではない。しかしそれでもやはり、書店の存在感は少しも薄くならないと思う。

 自分の知識の中にはない単語を検索窓に打ちこむことは不可能だから「ネットの大海」は案外狭くなりがちだ。サジェストやレコメンド機能があるにしても、そこに意外性を導入するのは難しい。しかし書店なら、「その店のスタッフが集めた本」が目当ての本の周辺にちゃんと並んでいる。ここに、思ってもみないよい出会いがあるのだ。

 だから「よく知らないこと」を知ろうとしている人にとって、専門書店は命綱と言っても過言ではない。この本に登場する9つの外国語専門書店は、人によってスタイルが違う外国語学習を後押ししてくれるような頼もしい存在だ。

 書店の話というのはそのまま人の話でもあって、どんな人がどういういきさつを経てその店で働いているのか、ということを知るのがおもしろい。フランス語の授業では劣等生だったけれど、フランス留学後仏語専門書店でアルバイトを始めたら、ちょうど業務デジタル化の波に乗って「居場所」をつかめた、その書店がやがて閉店したため、自分でネット書店を開いたという人。サッカーにのめりこんでドイツ語を学んだがどうにも合わず、イタリア語に切り替えて独学、留学とまっしぐらに進み、海外営業部門での仕事などを経てイタリアの絵本を扱う書店を開いた人。こうした「人生の物語」は、読者を強く励ますだろう。

 フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、中国語、韓国語、トルコ語&アラビア語、それぞれの専門書店。数は少なくてもこういう店があるということが、日本人の文化的な暮らしを底から支えているのだと思う。たとえわたしが外国語と無縁な日々を過ごしていたとしても、やはりそうなのである。

新潮社 週刊新潮
2024年11月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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