『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』
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大河ドラマの主人公を知る
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
来年のNHK大河ドラマは『べらぼう』である。横浜流星が演じる主人公は、江戸時代中期に版元(出版業者)として活躍した蔦屋重三郎。浮世絵師の東洲斎写楽を見いだし、喜多川歌麿を育て、戯作者の山東京伝にスポットを当てたことなどで知られる人物だ。
書店には、例によって多数の「大河」関連書籍が並んでいる。その中で、田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』は〈真打ち〉と言っていい一冊かもしれない。なぜなら、著者は重三郎を出版人という枠を超えた、優れた「編集者」として評価しているからだ。
では、重三郎は何を編集したのか。浮世絵や洒落本はもちろん、狂歌師たち、芝居と役者、さらに遊女を花に見立てるなどの方法で「吉原」を編集した。
ただし、ここでいう編集は情報整理や文章校正ではない。文脈や意味の再構築であり、新たな価値の創出でもある。「編集の究極がディレクション、つまり方向を指し示し、ヴィジョンを見せることである」という認識を、著者は故・松岡正剛から引き継いだ。
本書を読み進めると、重三郎がいかにして時代の規制を超え、表現の自由を追求し、人々の心を掴んでいったのかがわかる。そこでは重三郎と江戸庶民との間に双方向的コミュニケーションが成立している。まさに「編集」の成果だ。
果たして、ドラマの中で吉原という江戸ならではの「場」や遊女たちと伝統文化の関係はどこまで描かれるのか。刮目して待つ。