『ホーボー・インド』蔵前仁一著

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ホーボー・インド

『ホーボー・インド』

著者
蔵前 仁一 [著]
出版社
産業編集センター
ジャンル
歴史・地理/旅行
ISBN
9784863114203
発売日
2024/10/16
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ホーボー・インド』蔵前仁一著

[レビュアー] 宮内悠介(作家)

「伝説」後 飽くなき旅行記

 十代や二十代といった青年期の旅が、ほとんど宗教体験めいた強い印象を残し、その結果、次の旅、さらにまた次の旅へといざなわれることがある。評者もそうして旅をした一人だ。とはいえ旅というものは、くりかえすうちに、えてして既視感との戦いになる。真に新しいと感じられる景色や出来事は減っていくものだからだ。ただそれは、もしかするとこちら側の感受性が摩耗しているだけなのかもしれない。そう思わされるのが、今回取り上げるこの本だ。

 著者が伝説的とも言える旅行記『ゴーゴー・インド』を上(じょう)梓(し)したのが、一九八六年のこと。本書はいわばそのシリーズで、著者による、ここ十四年間のインド(およびバングラデシュ)旅行について書かれたものだ。

 内容は五章構成となっていて、まずは南インドから。著者にしては珍しく「食」を中心にした旅行記となっている。その次は北の高地、ヒマラヤのラダック地方だ。三十九年を経た再訪とのことで、ゴンパと呼ばれるチベット仏教の僧院や、かつて入域が制限されていて入ることができなかった地域を訪れる。

 三章と四章は、先住民の絵を求める旅。西インドの先住民が家の土壁に描く壁画(ミーナー画)と、ジャールカンド州という土地に住まう先住民が、やはり家の壁に描く絵を訪ねて歩くものだ。いずれも、美術館にいるみたいな路地の写真がたくさん掲載されていて興味を惹(ひ)く(ただ、ミーナー画の多くは建材の変化に伴い失われたとも)。最後がベンガル。バングラデシュと、それからインドのコルカタとなる。

 驚かされるのは著者の好奇心だ。これだけ長いこと同じ国を見てきたら飽きてきそうなものなのに、先住民のアートをはじめ、常に何かに向けて目を見開いているのだ。インドそのものの面白さもさることながら、こうした著者の意識のありようが興味深く、もっと世界へ目を見開かなければと気持ちを新たにさせられる。(産業編集センター、1760円)

読売新聞
2024年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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