『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』近藤絢子著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

就職氷河期世代

『就職氷河期世代』

著者
近藤絢子 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784121028259
発売日
2024/10/21
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』近藤絢子著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

2期に分け 実相に迫る

 団塊ジュニア世代のある作家は明るい未来が待っていると信じたのにバブル崩壊で梯(はし)子(ご)を外されたと書いた。だがこの世代に続く、より厳しい状況に直面した世代にとって、梯子など最初からなかったのだと著者はいう。

 本書は1993年から2004年に高校、大学などを卒業した人々を「就職氷河期世代」と定義し、さらにこのうちの93~98年卒の団塊ジュニア世代を「前期」、99~2004年卒を「後期」と区別して論じている。これらの世代の状況については、これまでかなりの報道記事やルポが伝えてきた。しかし厳しい事例の紹介に偏るなど全体像を捉えたものは少ないと本書は指摘する。著者は自身もこの世代に属する労働経済学者。データを網羅的かつ緻(ち)密(みつ)に分析し、総合的な視点でこの世代の実相を明らかにしたものとして本書は貴重な労作である。

 著者の分析の対象は雇用や賃金動向にとどまらず、家族形成や人口動態にも及ぶ。女性に関しての分析では通説とは違い、氷河期後期の女性は実は団塊ジュニア世代より出生率的には多くの子供を産んでいることや、出産後の就業継続率の上昇がみられるなど上の世代より良くなっている面もあるとの結果を示す。だが男性については、所得分布の下位層の所得がさらに下がり、厳しい生活状況の人が増えている。将来の低年金や低貯蓄者の増加も懸念されると指摘する。特に懸念されるのは親に経済的に依存する無業者や非正規就業者が増えており親の高齢化に伴うその層の生活困窮が問題であるという。

 さらに氷河期世代に続く05~09年卒の「ポスト氷河期世代」や10~13年卒の「リーマン震災世代」は見逃されがちで、非正規雇用が多い世代であるため将来不安の広がりはさらに大きいという新たな視点も提供する。氷河期世代に対する政策が小手先のものに終われば国全体の将来に大きなマイナスとなることは明らかである。速やかな効果ある政策対応を望みたい。(中公新書、968円)

読売新聞
2024年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク