『金色夜叉』
- 著者
- のぞゑのぶひさ [著]/尾崎 紅葉 [著]
- 出版社
- 幻冬舎
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784344043459
- 発売日
- 2024/09/19
- 価格
- 1,870円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『痩我慢の説』
- 著者
- 川勝 徳重 [著、イラスト]/藤枝 静男 [著]
- 出版社
- リイド社
- ジャンル
- 芸術・生活/コミックス・劇画
- ISBN
- 9784845866328
- 発売日
- 2024/08/30
- 価格
- 1,430円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『金色夜叉』のぞゑのぶひさ著、尾崎紅葉原作/『痩我慢の説』川勝徳重劇画、藤枝静男原作
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
漫画化2作 味わい新た
明治期に流行した本紙連載小説『金色(こんじき)夜(や)叉(しゃ)』は、ダイヤをきらめかせる銀行家に婚約者・宮を奪われた貫一が、熱海で宮と別離する場面が有名だが、それを知るのはもう少数派ではと思っていたら、漫画になって再登場した。
原作を読んだ人は、まだ世の中が薄暗く、人々の心が今ほどあからさまでなかった明治の空気を映す白黒の絵にひきこまれ、「こんな作品だったのか!」と目を見張る。未読の人は、要所で引用されるリズミカルな美文にひかれ、原作に手を伸ばしたくなるだろう。著者の死で未完だった名作のつづきを描き、完成させた手腕は見事。宮と決別し、あえて人でなしの人生を選んだ貫一の心の移りゆきを丁寧に描き、その切なさ、狂おしさに時代の隔たりを忘れる。
『痩我慢(やせがまん)の説』は知る人ぞ知る異色の私小説作家の、文庫未収録作の漫画化。伸びやかで楽しく、歴史の闇から躍り出た感もある人生賛歌だ。
戦後10年たった頃の片田舎を舞台にした作品は、「成長」を信じる時代の勢いもあり、風通しがいい。原作者と思(おぼ)しき中年医師の、キュートな姪(めい)ホナミへのまぶしいような気持ちが、自身の悔いある青春の思い出と対置され、作品に奥行きを与える。原作は石原慎太郎「太陽の季節」と芥川賞を競い、敗れた短編。本作は漫画の特性を活(い)かして姪の表情を生き生きと描き、作品の明度が増した。青春は危なっかしいが、だからこそ芽が伸びる季節なんだ。ということを老年に向かう医師の思いに身を寄せて読んだ。(幻冬舎、1870円/リイド社、1430円)