夢眠ねむ「純粋に恐ろしい」…トラウマ級の読書になりそうな「どくさいスイッチ企画」の“物騒な本”を解説

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殺す時間を殺すための時間

『殺す時間を殺すための時間』

著者
どくさいスイッチ企画 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041153505
発売日
2024/10/31
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

必読! 15年間のネタを惜しげなく詰め込んだショート・ショート集

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 まずタイトルが物騒である。“殺す”が2回も! 表紙をぼんやり見ていると、ああ、これは最強の暇潰しの意かと理解した。まえがきを読むと暇を潰すことを英語で「kill time」というらしい。“潰す”より“殺す”の方がより暇な時間に真剣に向き合っている感じがするなと思いながら、「他人の暇つぶしに時間と全力を注ぐ人生」にすると決めた著者が執念で練り上げた一冊を、たっぷり時間を用意して迎え撃つ。

 R-1グランプリで決勝進出したことをきっかけに芸人になった、と書かれてる通り、彼はピン芸人なら誰しも優勝を夢見る大会の決勝に出た時もサラリーマンだった。初のアマチュアでのファイナリスト。つまり、仕事をしていない時間にネタを書いたりライブに出たりしていたのだが、そんな彼の経歴やアーカイヴ量を見て仰天する。これを仕事しながら、しかも15年もやっていたのだと思うと純粋に恐ろしい。

 この本はweb小説サイト「カクヨム」に掲載されたものや創作落語の台本、書き下ろしを含む60篇。たっぷりで贅沢だなあと思っていたら、カバーそでにもびっしり1篇。カバーをめくった表紙にも1篇。とにかく作品が惜しげもなく詰め込むだけ詰め込まれたショート・ショート集である。

 読み進めるとゾワゾワしたり、ヒュッとなったり、上手いことを言われて唸ったり。同じトーンではなくさまざまな雰囲気のお話が読めるのだが、話ごとに変わるフォントや文字組み、変態的と言ってもいいブックデザインにも惹かれてページをめくり続けてしまう。もし学生時代に図書館で出会っていたら、トラウマ級の読書になっていただろうなあ。

 凄まじいものを見た後に有識者の友達とファミレスで語り合うみたいな、「春とヒコーキ」の土岡さんの解説も良い。ショート・ショートは読み物の中でも電子向きな気がするが、これはぜひ本で読んでもらいたい。

新潮社 週刊新潮
2024年12月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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