書物への愛、読書の愉悦が溢れ幅広いジャンルを網羅する小説家によるブックガイド!

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク
  • 米澤屋書店
  • 少年になり、本を買うのだ
  • 本屋さんで待ちあわせ

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

書物への愛、読書の愉悦が溢れ幅広いジャンルを網羅する小説家によるブックガイド!

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 小説家による書評を読むと、書き手ならではの読みや、その作品が自身の創作にどのような影響を与えたかが分かって楽しい。なにより書物への愛、読書の愉悦が溢れていて、読んでいるこちらも幸せな気持ちになれる。

 米澤穂信の『米澤屋書店』は書評や本についての対談、エッセイをまとめた一冊。文庫化に際して大幅に加筆し、巻末には直木賞受賞エッセイも追加された。ミステリー作家の著者らしく数々の推理小説にも多々言及されるが、ノンフィクションを含めた古今東西の幅広いジャンルを網羅していることに驚かされる。単行本刊行時から印象に残っているのは「必然性のない読書」という一篇で、いま読む必要があるわけではない物語を読むことは、その無用さが緩衝材になる、と説く内容。〈必要なこと、役に立つことばかりを追い求めては心が硬く、脆くなるのは平時でも同じことだ。〉と著者は語る。他にも、読む本を選ぶことについて胸を打つ文章もあり、読書の奥深さを改めて教えてくれる内容となっている。もちろんブックガイドとしても活用可能で、巻末に作品名と作家名の索引もついているのがありがたい。

 桜庭一樹も読書家として知られる作家だ。『少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記』(創元ライブラリ)に始まるシリーズはタイトル通り、著者の読書日記。こちらも古今東西の幅広い作品が挙がっている。日記であるだけに、作家の日常も垣間見え、周囲の人々とのとぼけた会話がそこはかとなくおかしい。

 三浦しをん『本屋さんで待ちあわせ』(だいわ文庫)も、さまざまな媒体で書かれた書評やエッセイを収録。現代小説、ノンフィクション、漫画、『東海道四谷怪談』といった古典まで紹介されている。幼い頃に「キュリー夫人」の伝記を読んでこの偉人が自分の身体に椅子を載せて寝ていたことに驚き、大人になってとある経験をして〈キュリー夫人、やっぱりあなたは偉大です!〉と心の中で叫ぶくだりに大笑い。著者ならではのユーモアセンスが本書でも炸裂している。

新潮社 週刊新潮
2024年12月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク