『アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略』
- 著者
- エルブリッジ・A・コルビー [著]
- 出版社
- 文藝春秋
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784166614684
- 発売日
- 2024/10/18
- 価格
- 990円(税込)
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『アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略』エルブリッジ・A・コルビー著
[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大准教授)
国益第一の「対中重視」
よくよく読むと、本書の真のテーマは「アメリカ・ファースト」であることが分かる。当然ではあろう。著者のエルブリッジ・コルビー氏は米国政府内で安全保障関係の要職を歴任し、トランプ次期政権にも入ると見られている人物だ。日本で幼少期を過ごしたことがあるとはいえ、コルビー氏にとって何より重要なのはアメリカの国益のはずである。
ただ、そのコルビー氏が「アジア・ファースト(アジア第一主義)」と銘打った著書を出版した意図は何か。これも本書を読んでいけば非常に明快だ。中国の軍事力拡張が続く中で、アメリカは西太平洋における軍事的優位を喪失しつつある、との危機感である。だからアメリカは軍事力をアジアに集中させないといけない。ウクライナや中東になどかかずらっているべきではない。これが「アジア・ファースト」の意味するところである。中国の軍事的脅威を肌で感じている日本にとっても、都合の悪い議論ではない。日本を含めたアジア諸国は対中抑止でもっと役割を果たすべきだという議論も、その通りであるとは思う。
だが、「アジア・ファースト」というのはあくまでもアメリカの国益に照らしての話である、ということは既に述べた。アジアそのものが重視されているわけではない。国益をめぐる状況が変わったら、アメリカはあっさりアジア防衛から手を引くのではないか、という危うさもコルビー氏の議論からは感じられた。ウクライナや中東は重要度が低いから関与を手控えるべきだというなら、何かの拍子でアジアの重要度が下がった時、我々も同じことをアメリカから言われるものと覚悟しておかねばならないだろう。
つまり、アメリカの世界戦略における「駒」として私たちを見る視線のようなものが、本書の行間からは垣間見えるのである。してみると、本書は「大国目線シミュレーター」としても読めるかもしれない。奥山真司訳。(文春新書、990円)