【豪SNS禁止法成立】なぜSNSが「子どもの心」を不安定にするのか? 超進学校・開成の元校長が中高生に薦めたい一冊を語る

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メンタル脳

『メンタル脳』

著者
アンデシュ・ハンセン [著]/マッツ・ヴェンブラード [著]/久山葉子 [訳]
出版社
新潮社
ISBN
9784106110245
発売日
2024/01/17
価格
1,100円(税込)

超進学校・開成の元校長が中高生に「一度は手に取って」と語る一冊とは? 中高一貫教育への持論も明かす

[レビュアー] 柳沢幸雄(工学博士。東京大学名誉教授。開成中学・高校元校長。北鎌倉女子学園学園長)


日本でも2022年のSNS犯罪被害児童は1,732人に…(令和5年版犯罪白書より)

SNSの影響で凶悪犯罪が多発

 オーストラリア議会が法案を可決した「16歳未満SNS使用禁止法」は、国内外で大きな反響を呼んでいる。

 しかしながら、日本ではまだどこか他人事という受け止め方もあるようだ。世論の反発や実現性の低さ、さらに新聞やテレビに関しては巨大スポンサーへの忖度などさまざまな理由が背景にはあるだろう。

 大抵の場合、この件について伝えるテレビのニュース番組は同じような構成だ。まずオーストラリアの法案通過と現地の声を紹介したのちに、日本国内の「街の声」のVTRが流れる。

「嫌だ」「もしも日本がそうなったら困る」という10代の感想、「やり過ぎ。問題は使い方であって、SNSそのものではない」という大人の意見、それに対して「子どものうちは制限があってもいいのでは」という理解を示す声……。これを受けてスタジオでは識者やキャスターが「なかなか難しい問題ですね」と言って締めくくるというパターンだ。

 一応、実際にSNSいじめがもとで息子を亡くしたオーストラリア人男性のインタビューが紹介されることもあるものの、全体としては「随分過激な法案が通ったものですね」というトーンが目立つ。

 だが、彼らも好き好んでこのような法案をわざわざ通したわけではない。見過ごせないケースがあまりに続いたことが背景にある。

 いじめ、他人の充実ぶりを見ることによる自己肯定感の喪失、あるいはデマの拡散などだけが問題ではない。たとえば今年4月に起きたのは、「凶悪犯罪の拡散」とも言うべき事件だった。シドニーのショッピングモールで40歳の男性が起こした無差別殺傷事件の現場を捉えた動画が拡散された後、類似の事件が連鎖的に発生したのだ。中には15歳の少年が聖職者らを負傷させるという事件もあった。

 動画に影響を受けたと見られる若者の凶悪事件が多発し、社会問題化しているのだ。

新潮社
2024年12月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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