『入門 シュンペーター』
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<書評>『入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才』中野剛志(たけし) 著
[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)
◆「創造的破壊」への国家関与を
経済産業省きっての論客によるユニークなシュンペーター論である。シュンペーターの人気は、わが国において学界でも経済界でも相変わらず高いが、久しく新書判でのシュンペーター論は登場していないだけに多くの読者が期待できるだろう。
著者は、シュンペーターが有名にした「創造的破壊」という言葉の意味をきわめて実践的な含意に注目して解説している。もちろん、著者は数年前に初めて邦訳された『経済発展の理論(初版)』を含めてシュンペーターの原典に依拠しているのだが、日本経済が数十年も停滞し続けているのはなぜかという疑問に対して、シュンペーターの主張とは反対のことをやり続けたからだと明快に答えている。著者は、発展の過程で生じる新陳代謝としての不況と、そうでない不況とを区別せず、後者を放置したのは政策の誤りであったと主張をする。
そのような主張は、1990年代以降の日本がアメリカ型の株主資本主義をモデルに一連のコーポレイト・ガバナンス改革(わかりやすくいえば、日本的経営を放棄し、「株主価値最大化」に染まってしまったということ)を取り入れたことによってさらに経済停滞に陥っていったという解釈にも通じている。
著者も強調しているように、アメリカでさえ、経済学者マッツカートがいうように、「企業家としての国家」(つまり国家が先端技術や産業を保護していること)が歴然と存在しているにもかかわらず、市場原理主義のイデオロギーに幻惑されて政策を誤ったというわけだ。この点は評者も賛成だ。
企業家国家論と著者の十八番である「現代貨幣理論」(MMT)との親和性に触れているのも新しい視点である。つまりシュンペーターは、銀行家による信用創造がイノベーションを賄うと考えたが、それとマッツカートの企業家国家論を介してMMTと結びつけるという斬新な解釈である。
賛否両論を含めて、シュンペーターに関心のある読者には本書を読んで一緒に問題を考えることをすすめたい。
(PHP新書・1540円)
1971年生まれ。経済産業省官僚。評論家。著書『TPP亡国論』など。
◆もう一冊
『企業家としての国家』マリアナ・マッツカート著、大村昭人訳(経営科学出版)