『国際存在としての沖縄』
- 著者
- 宮崎 悠 [著]/柴田 晃芳 [著]/中村 研一 [著]
- 出版社
- 法政大学出版局
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784588625510
- 発売日
- 2024/10/15
- 価格
- 6,820円(税込)
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『国際存在としての沖縄』宮崎悠/柴田晃芳/中村研一著
[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)
文化や政治 独自貫く力
論争的な沖縄論である。キーワードは国際存在――明や清、島津や日本、そして米国など、外部からの浸透に晒(さら)されても独自の存在を保ってきた非主権体として、沖縄を再評価する。
生半可な過程ではない。ときにそれは、領域から制度、アイデンティティーに至るまで、大断絶を伴った。17世紀初頭の島津による琉球侵攻や20世紀半ばからの米国による占領・支配がそれに当たる。しかしそのたびに、自身の存在様式を見(み)出(いだ)し、それを外部に認めさせてきた。
冊封体制と薩摩・日本のはざまにあり、複数の世界秩序に対応してきた沖縄・琉球は、島津の政治的支配のもとに下っても、歌や舞踊などの宮廷芸能(とその大衆化)を通じて、中国にも日本にも、その存在を主張し続けた。
凄(せい)惨(さん)な沖縄戦により故郷が非故郷的な異界に転じたのち、沖縄は著しく自決力を削(そ)がれたなか、土地闘争をてこに島ぐるみの大衆運動を米国に突きつけた。結果、決して自明ではなかった日本復帰をたぐり寄せ、その存在を表出した。
もちろん経緯からくる構造的な制約がある。戦後沖縄への基地の集中は、戦時中に日本が造成した基地を米軍が引きつぎ、軍人指導者マッカーサーらが沖縄を結節点とする太平洋島(とう)嶼(しょ)ライン(と空軍・海兵隊)を重視したことで進行した。沖縄の重武装化の裏側で構想されたのが本土の非/軽武装化だ。それは戦後日本の「9条=安保体制」の原型をなし、沖縄はその要に位置した。それは実は「9条=安保=沖縄体制」だったのである。
この構造を見てとらず、戦後日本の平和主義を理想化し、内地の政党政治と同期して保革対立を多様な沖縄に持ち込み、結果的に自立を妨げたかもしれないが、それでも文化から政治まで沖縄は自らの存在証明を諦めなかった。
英語でいうCritical Empathyは、距離をおきつつ理解・共鳴するまなざしを指す。読後、そんなことばが浮かぶ。(法政大学出版局、6820円)