『思えばたくさん呑んできた』
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『思えばたくさん呑んできた』椎名誠著
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
最近、周りに酒を控えているという人が増えてきた。酒が大好きで、できることなら毎日飲みたいのに、そんな話を聞くと気が滅(め)入(い)る。だからこの本を読むうちについ飲みたくなってしまい、冷蔵庫に缶ビールを取りに行く。
読めば行きたい店が見つかる。そんなガイドブック的要素はほぼ無いが、逆に、今自分が知っている場所がより愛(いと)おしくなる。好きな時に、好きな所で、好きな人と。大事なのはそこだと教えてくれる。
そして、雑誌に連載されたものが時系列バラバラに収録されているせいか、同じことがくり返し書かれているのも良い。読み進めるうち、何度も同じ話をする酔っぱらいとしゃべっているような感覚になる。酔っている人への、あの良い意味での信用のなさ。酔っぱらいの言うことは信用できないというのが一般的かもしれないが、本当は、そちらの方がよっぽど信用できるのかもしれない。
このご時世、素(しら)面(ふ)でいる人の方がよっぽど恐ろしい。信用できない言葉を信用することも、たまには必要だ。忘年会シーズンにピッタリの一冊。(草思社、1760円)