『「迷わない心」のつくり方』
- 著者
- 稲盛和夫 [著]/羽賀翔一 [イラスト]/稲盛ライブラリー [編集]
- 出版社
- サンマーク出版
- ジャンル
- 社会科学/社会科学総記
- ISBN
- 9784763141712
- 発売日
- 2024/11/08
- 価格
- 1,650円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【毎日書評】京セラ創業者・稲盛和夫さんが考える、人生を決める「思い」のつむぎ方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
皆さんには、自分自身の夢を描き、それを実現するために燃えるような情熱を抱き、一生懸命努力をしていただきたいと思います。
たとえ、どんな逆境に遭遇しようとも、どれほど厳しい環境に置かれようとも、挫けることなく、常に明るい希望を持ち、地道な努力を一歩一歩たゆまず続けていくならば、自分が思い描いた夢は、必ず実現するということが、自然の法則です。(鹿児島市新成人のつどい記念誌『新成人の君へ寄稿』)
(「本書の刊行にあたって」より)
『「迷わない心」のつくり方』(稲盛和夫 文、稲盛ライブラリー 編、サンマーク出版)の著者である京セラ創業者・稲盛和夫氏(以下:著者)は生前、社会に羽ばたいていく若者たちに向け、毎年このようなメッセージを贈っていたのだそうです。
数々の挫折と試練を乗り越え、生涯を通じて挑戦し続けてきた自分自身の揺るぎない信念、そして未来を託す若者たちへの希望はそこには込められていたのでした。
稲盛は求めに応じて、後進の経営者に経営のあり方、経営者のあるべき姿を説くことに注力してきましたが、それ以上に魂を込めて語りかけてきたのが、これから社会に出る若い人たちに向けた講演でした。
そして、さまざまな場で若者たちに対し、自らの経験を踏まえ、物事は心に描いた通りになる、心の持ち方次第で人生は変わるとして、自分の無限の可能性を信じてたゆまぬ努力を重ねることの大切さを熱く説きました。(「本書の刊行にあたって」より)
そんな著者が永眠して2年。その思いを継ぎ、人生や仕事において進むべき道に迷い、不安を抱く若者たちを励まし、希望を見出してほしいとの思いから生み出されたのが本書。数々の講演のなかから厳選された4本が収録されています。
きょうはそんな第4章「君の思いは必ず実現する」のなかかから、「思う」ことについての考え方に焦点を当ててみたいと思います。著者は長い人生のなかで、心にどのような「思い」を抱くかによって人生が決まっていくのだということを何度も実感してきたというのです。
「思う」とはどういうことか
著者はまずここで、人間が「思う」ことについての考え方を明らかにしています。
我々は一般に、物事を論理的に組み立てたり、頭で推理推論したりすることが大切であり、「思う」ということは誰にでもできることなので、大したことではないととらえています。
しかし、この「思う」ということは、論理的に推理推論したりすることよりもはるかに大事なものです。我々が生きていく中で、この「思う」ということほど、大きな力を持つものはないと私は信じています。(154〜155ページより)
もちろん、頭がよいというようなことも大事ではあるでしょう。しかし、心でどのようなことを「思う」かは、それよりもはるかに重要だと著者は述べています。「思う」ということは、人間のすべての行動の源、基本になっているから。
なお、このことはふたつの側面からとらえることができるそうです。
まず、我々が毎日の生活を送る中で抱く「思い」の集積されたものが、我々の人間性、人柄、人格をつくり出しています。
「自分だけよければいい」という、えげつない「思い」をずっと巡らせている人は、その「思い」と同じえげつない人間性、人柄、人格になっていきます。
逆に、思いやりに満ちた優しい「思い」を抱いている人は、知らず知らずのうちに、思いやりにあふれた人間性、人柄、人格になっていきます。(155〜156ページより)
つまり「思い」は私たちに、それほど大きな影響を及ぼしているということです。(153ページより)
「思い」の集積がその人の運命をつくる
さらに、「思い」にはもうひとつ大きな役割があるといいます。「思い」を集積することによって、その人に見合った境遇をつくっていくということ。「思い」を集積したものが、その人の運命をつくっているといっても過言ではないそうです。
そのことについて、今から100年ほど前に活躍したイギリスの哲学者ジェームズ・アレンは、「人間は思いの主人であり、人格の制作者であり、環境と運命の設計者である」と言っています。(157ページより)
その人の周囲になにが起きていて、現在どのような境遇にあるのか。それは、いままでその人がずっと心に抱いてきた「思い」が集約されたものだということ。
したがって、「私は不幸な運命のもとに生まれた人間なんだ」などと悲観的になったところで、なんの意味もないわけです。その運命は、他人が押しつけたものでもなければ、自然がもたらしたものでもなく、自分自身の「思い」がつくり出すものだからです。(156ページより)
私たちの社会は人類の「思い」から生まれた
人は誰でも、「こうしたい」「こういうものがあったら便利だ」「もしこういうことか可能ならば」という「思い」が、心に浮かんできます。(中略)
そして、その夢のような「思い」が強い動機となって、人間は実際に新しいものをつくっていきます。何度も失敗を繰り返しながら、新しい乗り物をつくり出していくのです。そのようにして、ある人は自動車というものを考案しました。またある人は飛行機をつくりました。(160〜161ページより)
それらの発端となるのは、心のなかにふと湧いた「思いつき」。「思いつき」は軽いもののように思われがちですが、じつはそれは非常に大事だといいます。なぜならそれは、発明や発見の原動力になるから。つまり「思う」ということは、物事の出発点となるわけです。
多くの人は、「思う」ことを簡単なことだととらえ、軽んじていますが、「思う」ことほど大事なものは他にありません。(162ページより)
人間の行動は、まず心に「思う」ことから始まる――。これは記憶にとどめておくべきことかもしれません。(158ページより)
本書は、5年前から進めていた企画だったのだそうです。ところが、あと少しというところで稲盛氏が亡くなったため、一度は頓挫していたのだとか。
しかし稲盛氏自身が通された企画だということもあり、コンセプトを崩さないまま制作されたのだといいます。若い人が対象だとはいえ、そのメッセージはあらゆる年齢層に響くはず。人生に迷いを感じたとき、手にとってみたい一冊です。
Source: サンマーク出版