『ミスター・チームリーダー』
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〈チーム作りはボディビルである〉独特な組織観で突き進む係長の信念
[レビュアー] 乗代雄介(作家)

筋トレしてるイキリがちな人の物語は…(※画像はイメージ)
人生は物語だ。それはいかにも陳腐な言葉であるが、そう信じることでつらい状況を受け容れ、未来に希望を持てるようにもなる。人生がいったい何であるかは誰にもわかりはしないけれど、「人生は○○だ」と決めこんだ者には、現実がそのように見えてくる。人は様々な場面で、そんな決めこみをして自分を慰め、励まし、急き立てる。
勤める会社で係長に昇進したばかりの後藤はボディビル選手でもあり、太った同僚たちを内心で「デブ」と罵りこき下ろすことにためらいがない人物だ。「デブなんだから一生懸命うごけよ」と思い、大会を控えて減量を進めるボディメイクが順調にいかない苛立ちから、「お前がデブだから膝が痛いんだろ?」とうっかり発言して物議を醸したりもする。
係長というポジションは上と下からの板挟み。そんな中、その膝が痛い同僚をチームから追い出すと減量でき、仕事に追われ出すと節制にも拘わらず体重が増えてしまうなどの状況に直面し、後藤は一つの考えを信じこむようになる。チーム作りはボディビルである、というもので、「俺のチームがシュッとすると、俺の身体もそうなるんですよ」というのが、後藤の自己分析だ。
無駄な体脂肪のような人材を排し、よく動く筋肉のような人材を揃えた先に理想の「美」がある。ボディビルと結びつけた組織観を胸に、後藤は仕事と人員削減に励む。そのうち、自分の体重が望み通りに落ちると、また一人チームから人がいなくなることを予期するようにさえなる。彼はそれを「燃焼」と呼ぶ。そんな奇妙なシンクロの果てに、ボディビル大会前日の計量日がやってくる。
後藤がそのように世界を捉えるならば、結末は全てが上手くいくハッピーエンドか、その逆のバッドエンドのどちらかしかないように思えるが、どっこい人生は物語である。彼が信念を持ち続ける限り、終わりはこない。それがいちばん恐ろしい。


























