『アルジャイ石窟』楊海英著

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アルジャイ石窟

『アルジャイ石窟』

著者
楊 海英 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784480018083
発売日
2024/10/17
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『アルジャイ石窟』楊海英著

[レビュアー] 岡美穂子(歴史学者・東京大准教授)

 モンゴル帝国は、周知のように13世紀から14世紀中頃を中心にユーラシア大陸の広大な範囲を支配した遊牧民国家である。フビライがチベット仏教のラマに深く帰依したことで、モンゴル帝国ではチベット仏教信仰がとりわけ盛んになった。その後歴史の流れの中で盛衰を経ながらもモンゴル人の信仰は「ラマ教」と呼ばれるチベット仏教であり続けた。しかし「ラマ」すなわち僧侶たちの多くが、主に中国の文化大革命の嵐の中で処刑され、その寺院は破壊された。そして、草原に栄華を誇ったアルジャイ石窟もまた廃れるままとなる。

 13世紀のモンゴル帝国期に繁栄したアルジャイ石窟は、同時代の代表的な寺院である。内モンゴル自治区のオルドスに生まれ育った著者は、歴史人類学と文献学の視点からアルジャイ石窟にアプローチする。文化財研究の成果も網羅しつつ、石窟を取り巻く宗教・政治的勢力の変遷がナラティブに描かれる様は圧巻である。

 専門的な内容ながら魅力的な文章で、草原の帝国の盛衰物語の世界観に引き込まれた。(筑摩選書、2090円)

読売新聞
2024年12月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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