『社会保障のどこが問題か』
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爆発寸前の社会保障 地雷原の歩き方
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
どうやって「年金問題」を解決したらいい?
あなたが年金のことを忘れているときも、年金はあなたのことを忘れていない――なんて役所がホザいてたのは昭和の昔。今やアナタは年金のことが忘れられず、年金はアナタのことを忘れたくてしかたがない。
年金に限らず健康保険だ生活保護だ失業手当だのが騒がれるのはニッポン零落の証。社会保障は国にとっても(払えない!)アナタにとっても(受け取れない!)喫緊の大問題に化けたのに、既得権益組は実入りの減少を恐れ、政治屋は選挙を恐れて改革は遅々。見て見ぬふりで脇をすり抜けたいけれど、時計の針が回れば必ず足を踏み入れずにはおられぬ地雷原です。
その踏破に不可欠な地雷の敷設マップと除去マニュアルになるのが『社会保障のどこが問題か』(筑摩書房)。著者は研究者ながら福祉や医療の現場で頼られる実践ガイド『社会保障のトリセツ』も書いてる山下慎一だけに、複雑怪奇な大迷宮を的確に案内するだけじゃない。地雷原を誰もが頼れる安全網(セーフティネット)に変えるための制度改正の道筋までを示してくれる。
が、この新書を読む意義はさらにある。この国の社会保障が万人にとってツカえないのはその根本に、働かざる者喰うべからずなる身勝手で貧乏臭い倫理観と、それゆえ憲法に掲げられた勤労の義務があるからと教えられると、見えてなかったモノが一気に見えてくるのよ。たとえば、この国ではなぜ異常なまでに強く安心ばかりが求められるのかとか、AI大失業時代にどう生きるのかとかね。