『センスのよい考えには、「型」がある』
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【毎日書評】うまくいく人は「インサイト=人を動かす隠れたホンネ」をみつけて活用している
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
一生懸命がんばっているのに努力が報われず、成果に結びつかない――。そうした悩みを抱える方がいる一方、画期的なアイデアを楽しそうに生み出し、次々と成果を上げていく人もいるものです。
だとすればその差を突き止めたいところですが、『センスのよい考えには、「型」がある』(佐藤真木、阿佐見綾香 著、サンマーク出版)の著者によれば、“うまくいく人”がうまくいくのは「いつもの思考の裏側」(マーケティング用語でいう「インサイト」)を活用しているからなのだとか。
優れたアイデアや解決策を出してくる人は、ほとんど無意識に「インサイト」を探し出して使っているというのです。
闇雲に努力し、ひたすらアイデアを捻り出そうとするよりも重要なのは、たったひとつの「インサイト」を見つけること。
そうすれば高確度で、より多くの人を動かせるような、優れたアイデアを生み出せるそう。ちなみに「裏」がいいのは、普段は表に出ない「隠れたホンネ」にたどり着けるからだといいます。
なお、「裏側から考える」インサイト思考とは、“「インサイト=人を動かす隠れたホンネ」を考えていく思考法”ということになるようです。そのメリットは、行き詰まった現状を突破し、少ない力でより大きな成果を得られること。
モノも情報もあふれる現代では、ターゲット=顧客となる人を中心に考えることの大切さがよく指摘されており、「お客様目線で考える」「顧客起点で考える」「n=1分析」など、様々な言い方がされています。
「インサイト思考」では、これらのターゲットを分析する中でも、特にターゲットを動かす原動力となり、ターゲット自身でも、うまく言葉にして自覚できていない「隠れたホンネ」を考えることを提案しています。(「はじめに」より)
きょうはそんな本書の第1章「『インサイト』って何?」に焦点を当て、基本的なことをもう少し深く確認してみることにしましょう。
インサイトとは、「人を動かす隠れたホンネ」
「心を動かすツボ」や「顧客自身も気づいていない隠れた本音や動機」など、「インサイト」ということばにはさまざまな定義があり、解釈もまた人それぞれ。その点を踏まえたうえで、本書ではインサイトとは「人を動かす隠れたホンネ」であると定義しています。
「隠れたホンネ」という部分が大切なのは、「人は自分のホンネに気づいていないことも多い」ものだから。そのホンネとは、いいかえれば「ことばにして明確に自覚できてはいなかった自分の本当の気持ち」だということです。
“隠れたホンネ”は自分でも気づいていないことがあります。それを精緻に言語化することで、相手に「自分がほしいいものはこれだったんだ」「これが自分が大事にしたいことだったんだ」と感じてもらえれば、相手の心を動かすことができます。(35ページより)
つまり、こうしたインサイトの見つけ方を知り、仕事や暮らしに役立てていくことを本書は目指しているわけです。(33ページより)
「隠れたホンネ」だからこそ「人を動かす」
そして、その「ホンネ」が真に迫ったものであるなら、それは“人の心や体を動かしてしまう”のだということ。そのことを示すために、ここではいくつかの具体例が示されています。確認してみましょう。
つらい状況を言い当てられて涙が出る
大変な状況でも弱音を吐かずにがんばり続けていたとき、ふと人から「あのときは、つらかったよね。大変だったね」とことばをかけられ、涙があふれ出てしまった。
そのような経験のある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
それはもしかしたら、自分の本当の気持ちを自覚する余裕がなかったり、正面から見ようとしないでいたときなどに、突然、自分の「隠れたホンネ」をいい当てられたからなのかもしれません。そのため、心と体が反応してしまったのではないかと考えることができるわけです。
見たくない自分の内面を言い当てられてイラッとする
うまくいかなかったことについて「努力が足りなかったんじゃないの?」などと突っ込まれ、思わず「そんなことないよ!」と強く反論してしまうようなこともあるでしょう。それは、自分の心のなかにも「もしかしたら、もう少し努力できていたかもしれない」という気持ちがあったからなのかも。
しかし、それは自分では気づきたくなかった「隠れたホンネ」だからこそ、咄嗟に感情的になってしまうと考えられるのです。別の角度から見れば、自分では自覚できていない「コンプレックス」に近いものかもしれないと著者は指摘しています。
こうしたことからもわかるように、「隠れたホンネ」と人の行動は密接に結びついているということです。(36ページより)
「インサイト」を探す意味
繰り返しますが、人は多くの場合、「自分自身の本当にほしいもの」を、正確な言葉で言語化できていないし、自覚できていないものです。だから、まわりの人に対して無意識的に、自分が本当にほしいものとは「少し違った」発言をしたり要求をしてしまったりします。
だからこそ、その人の本当の欲望をうまく言語化して、その欲望に見合うような行動をしてあげられれば、相手に喜んでもらうことができます。(37〜38ページより)
つまり、そこに「人を動かす隠れたホンネ」=「インサイト」を探索することの価値とおもしろさがあるというわけです。
さらにいえば、「人を動かす隠れたホンネ」の「人を動かす」の部分をより具体的に説明するなら、それは「ある目的(ゴール)を果たすために、狙った人たち(ターゲット)に、自分たちの期待しているように動いてもらう」ということにもなるようです。
たとえばその目的が「商品を買ってもらいたい」ということなら、仕事での話になりますし、身近な人を動かしたいのであれば暮らしの話になるでしょう。そういった汎用性の高さも、「インサイト」の大きな特徴。
単に目的が異なるだけで、仕事でも暮らしでも、「インサイト」を見つけるためのプロセスは基本的に変わらないということです。(37ページより)
しっかりとした手段や思考法、その適切なステップさえ理解すれば、誰でも「インサイト」に近づけるといいます。そうした考え方を軸とした本書は、人の心をしっかりとつかむために役立ってくれそうです。
Source: サンマーク出版