『記者と官僚 特ダネの極意、情報操作の流儀』佐藤優/西村陽一著

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記者と官僚

『記者と官僚』

著者
佐藤優 [著]/西村陽一 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784120058394
発売日
2024/10/08
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『記者と官僚 特ダネの極意、情報操作の流儀』佐藤優/西村陽一著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

「天職」を生きる 対談の妙

 驚異的な人間関係術を駆使した情報(インテリジェンス)収集の達人、佐藤優。海外取材の修羅場を経験しながら記者のあるべき姿を追い求めてきたジャーナリスト、西村陽一。そのふたりが語り尽くした本書には、互いの立場と人となりに対する深い理解があふれ、対談の妙味を十分堪能させてくれる。

 佐藤はモスクワの日本大使館員として1991年8月のクーデターで軟禁されたゴルバチョフ大統領の生存を世界に先駆けて流した。どうしたら極秘情報を得ることができたのか。その極意が明らかにされているだけでない。日露首脳会談の隠れたる裏事情、共産党やマフィアとの付き合い方、新聞社のスクープ潰しなど生々しいエピソードが満載である。

 メディアが陥りやすい五つの罠(わな)についての西村の指摘は極めて重要である。国益を守るという名の下に思考停止になる「国益の罠」、イラクの大量破壊兵器報道に見られた「集団思考の罠」、目の前の特ダネにつられてしまう「近視眼的熱意の罠」、どちらにも言い分があると判断を避ける「両論併記の罠」、逆に善悪二元論で切り捨てる「両論併記糾弾の罠」。

 その罠から免れるために何が必要かを含めてメディアが立脚すべき最高の規範は何なのか。西村は「不偏不党」「中庸」も重要だが、「独立性」こそが大事だという。それは意識の持ち方としての独立、政治的な党派からの独立、取材対象からの独立、そしてビジネスの利害からの独立である。こう列挙すれば無味乾燥な建前のように思われるかもしれないが、西村はひとつひとつ具体例を示しながら説明している。

 記者にもインテリジェンスに携わる官僚にも共通して大切なものとして挙げているユーモアのセンスや情報源を甘やかさない・情報源に甘えない、検証を怠らないなど「七つの鉄則」もまた大事である。本書を読み、同じジャーナリストとして衿(えり)を正さざるを得なかった。(中央公論新社、1980円)

読売新聞
2024年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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