『透析を止めた日』
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『透析を止めた日』堀川惠子著
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
夫の治療 作家渾身の記録
数々の賞に輝いたノンフィクション作家が、自身の体験からの思いを世に問う渾(こん)身(しん)の力作である。
著者の夫は、透析を長年受け続けたが、60歳の若さで惜しくも亡くなった。第1部では、その夫の仕事への執念と壮絶な闘病生活、著者の献身的介護、両者の心の強い結びつき、家族や医療関係者との関わりが克明に語られる。夫婦や家族の厳しくつらく切ない状況が伝わり、読む者の心を大きく揺さぶる記録だ。<取材者たれ>という作家魂は<患者や家族目線の発信が皆無の>我が国の透析界の実相に迫り改善を訴える得難い機会を逃さない。
第2部では「透析」の功績は認めつつ、問題点を掘り起こし、社会問題として提起する。著者も述べているが、自分にとって最も身近な存在の生と死を基に問題提起を行うことは、つらくためらいを感じることであったろう。しかし、この記録を公にすることを<献体>と捉えて透析の現実を描き、治療が患者や家族の苦しみを和らげる形になってほしい……そのような切なる思いで本書を執筆したという告白は読む者の心をさらに大きく打つに違いない。
重度の腎不全の透析のうち、我が国で広く行われてきたのは「血液透析」だ。その処置は1日4時間以上を要するうえ、週3日必要で、それが長年にわたり続く。畳針のような太い針を刺される負担も重く、全身に大きな影響が生じる過酷なものだ。また透析患者は終末期を迎えたり希望により透析を中止したりすると耐えがたい苦しみに直面するケースが多い。我が国では治療効果は緩やかだが負担が少ない「腹膜透析」の選択例は少なく、<緩和ケア>の体制も出来ていない。後者については緩和ケアの健康保険適用対象が「がん」などに限られており、「重度腎不全」には適用がないことが大きい。著者は透析の方針選択に当たって丁寧な情報提供と患者の要望とのすり合わせが必須と医療側に迫ると同時に、緩和ケアの体制作りを強く訴える。(講談社、1980円)