<書評>『ミュージカル映画が《最高》であった頃』喜志哲雄 著

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ミュージカル映画が《最高》であった頃

『ミュージカル映画が《最高》であった頃』

著者
喜志哲雄 [著]
出版社
国書刊行会
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784336074829
発売日
2024/09/26
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ミュージカル映画が《最高》であった頃』喜志哲雄 著

[レビュアー] 長谷部浩(演劇評論家)

◆言語芸術としての価値吟味

 ミュージカルには、偏愛を呼び覚ます力がある。

 舞台ではキャストを変えた上演も行われ、観客は何度も劇場に通う。映画は、映像を購入して、同じ作品を繰り返し観ることができるようになって久しい。強烈な魅力がある。

 英文学者の喜志哲雄は、ハリウッドで作られたミュージカル映画の1940年代、50年代を「《最高》であった頃」としている。ならば、この時代に作られた名作を網羅して扱っているかというと、そうではない。

 喜志の関心は、フレッド・アステア、ジーン・ケリー、ジュディ・ガーランドに絞られている。アステアの「トップ・ハット」、ケリーの「雨に唄えば」、ガーランドの「オズの魔法使(つかい)」のような代表作ばかりではない。この3人については、お互いの共演作を含めて、ほぼすべての作品の価値を吟味し、その独自性を明らかにしようとしている。

 一方、喜志はそれぞれの作品の難点を指摘することをためらわない。その基準も確固たるものだ。ミュージカルを歌と踊りのエンターテインメントとして片づけるのではなく、ストレートプレイ(いわゆる演劇)と同様、言語芸術としての価値があるかを検証する。全体のシナリオのなかで、歌と踊りが、しっくりと溶け込んでいるかが重要だと考えている。そのため、歌詞と曲の持つ意味も、なおざりにせず、個々の映画の筋を執拗(しつよう)なまでに語っている。文学性を重く見ている。例外は、喜志が晩年のガーランドのコンサートをカーネギーホールで生で観た経験を語る第四章の冒頭だろう。

 私がひかれたのは、アステアとジンジャー・ロジャーズが共演した10本について熱く語る第三章である。アステアを「幼稚な芸術にすぎなかったミュージカル映画を大人の鑑賞に堪えるものにした」と評価し、最も重要な協力者としてロジャーズを位置づける。歴史的な意味ばかりではない。銀幕のなかで踊るふたりへの偏愛が感じられた。

(国書刊行会・3300円)

1935年生まれ。京都大名誉教授・英米演劇。著書『英米演劇入門』など。

◆もう1冊

『フレッド・アステア自伝』フレッド・アステア著、篠儀直子訳(青土社)

中日新聞 東京新聞
2024年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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