『戦後日本の武器移転史』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<書評>『戦後日本の武器移転史 1945~2024』纐纈(こうけつ)厚 著
[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)
◆米の兵器工場化 必然の道
このままだと日本は、米国の兵器工場にされてしまう。オーストラリア海軍との潜水艦輸出交渉、フィリピン軍に向けた沿岸監視レーダーの無償供与、まさにその米国へのパトリオットミサイル逆輸出…。米中対立を背景とした武器生産と輸出の活況は、そんな近未来を予感させる。
安倍晋三政権が閣議決定した「防衛装備移転三原則」や岸田文雄政権下の運用指針改定で、政府・自民党は武器輸出のほとんどフリーハンドを手に入れた。米国に渡った完成品が戦闘に使われない保証はない。よく似た立場の韓国が近年、ウクライナ支援に傾注するポーランドへの戦闘機や戦車の輸出に躍起な事実にも要注目。
淡々とした筆致が重い。国立大学の副学長も経験した近現代政治軍事史家の、最新の研究報告だ。
本書によれば、しかし、目下の事態は一朝一夕に導かれたものではない。朝鮮戦争を機に復活した軍需産業の、MSA協定締結以降の歩みに照らせば、現状はむしろ必然的な帰結ではあるまいか。
米国の相互安全保障法に基づく同協定を、当時の吉田茂内閣は積極的に受容した。援助による防衛負担の軽減で浮いた資源を、経済の再興と自立に投じる企図ゆえに。
もちろん米国の思惑は日本に対ソ連・対中国の軍事戦略上の役割を担わせることだ。「逆コース」の過程で、“自立”との乖離(かいり)を埋める方策としての武器輸出が拡大した。平和憲法との矛盾が国会で論じられたのは、ようやく1967年に至ってからである。
安倍政権以前の「武器輸出三原則」は、そうした過程で発せられたが、三木武夫首相らの国会答弁の積み重ねに留(とど)まって、法制化はされずじまいだった。緻密な分析から導かれた著者の懸念など杞憂(きゆう)に終わらせなければならない。
「はじめに」に、<武器による巨大な利益構造と戦争という国家暴力の行使による支配と覇権。その常態化を検証する場合、武器移転の問題へのアプローチはますます不可欠になっている>とあった。本書の意義はこれに尽きる。
(緑風出版・2970円)
1951年生まれ。明治大の客員研究員。元山口大学理事・副学長。
◆もう1冊
『日本の武器生産と武器輸出 1874~1962』纐纈厚著(緑風出版)