有給休暇は権利です。メンタル不調で動けなくなる前に正しく休みリセットするコツ

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産業医が教える 会社の休み方

『産業医が教える 会社の休み方』

著者
薮野淳也 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784121508294
発売日
2024/12/06
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】有給休暇は権利です。メンタル不調で動けなくなる前に正しく休みリセットするコツ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

産業医が教える 会社の休み方』(薮野淳也 著、中公新書ラクレ)によれば、ビジネスパーソンの8割以上が、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを抱えているのだそうです。

また、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上の休職、または退職をした労働者がいた事業所の割合は1割以上(令和5年「労働安全衛生調査」より)で、この割合は増加傾向にあるのだとか。企業側から見ても、メンタルヘルスによる「休職」は決して特殊なことではなくなってきているわけです。

そうした現状を鑑み、著者は次のようなメッセージを投げかけています。

言うまでもないですが――「休むこと」って大事です。そして、有給休暇は権利です。疲れたら、心身に負担を感じたら、正々堂々と休みましょう。

そして、「睡眠」も大事です。仕事のことが頭から離れずに眠れない、睡眠不足でパフォーマンスが低下している――。そんな状態になったなら、薬の力を借りるのも手です。まずは睡眠をとって、一度リセットしてみましょう。

それでも良くならないのなら、休職も良い方法です。(「はじめに」より)

「休職」と聞くと、キャリアに影響をおよぼすような“オオゴト”だと感じられるかもしれません。しかし、いまや休職は珍しいことではなくなっているようです。

事実、産業医である著者は、些細なことで体調を崩してしまう人だけでなく、少しばかりの休職と環境調整のおかげでまた元気に働いている人もたくさん見てきたのだといいます。

そこで本書においてはそうした実体験に基づき、「正しく、適切で、安全な」会社の休み方について“知っておくべきこと”を解説しているわけです。

きょうはそのなかから、第7章「心身を健康に保つ、本当に幸せな働き方」に焦点を当ててみたいと思います。

メンタル不調は誰にでも起こる

先日、ある企業で1年間の産業医業務のまとめを、人事の皆さんに報告しました。

メンタル不調の方の相談や休職面接についての統計を出し、既往歴の有無で分けてみたところ、圧倒的に既往歴のない人のほうが多数でした。つまり、メンタル不調に陥ったのは初めてという人がほとんどだったのです。

また、ストレスを抱えた理由もさまざまでした。過重労働や職場の人間関係、目標達成のプレッシャーといった仕事にまつわることだけではなく、家族の介護や病気など家庭の問題が関わっていることもありました。(198〜199ページより)

ここからわかるのは、メンタル不調は誰にでも起こりうるということ。著者自身もクリニックの開業当初、あまりの忙しさに眠れなくなり、食欲も落ちて体重が10キロ減って、適応障害になったことがあるそうです。

つまり、心が弱いからメンタル不調になるというわけではなく、さまざまなきっかけで誰しも心のバランスを崩す可能性はあるのです。しかし、メンタル不調で相談を受けた方の大半が既往歴なしということは、「正しく休めば、ずるずると引きずるわけではない」ということでもあります。

メンタル不調による休職は復職後の再発も多いようですが、それは“休み方の質”が悪かったから。ただ仕事を休むだけではなく、きちんと自分を整えて“不調に至った原因”をしっかり振り返り、さらには職場に働きかけて環境も整えれば、「また再発するかも」とビクビク過ごす必要はないということです。

メンタル不調は誰にとっても無縁ではないけれど、一度なったからといって、ずっと不調を抱えたまま生きていかなければならないわけではありません。(200ページより)

いま、つらさを感じている方は、そのつらさがずっと続くわけではないということを忘れないでおくことも大切なのでしょう。(198ページより)

定時で働けないなら、休む

会社で働くということは、働いた分、お金をもらっているわけです。

そして、就業規則には必ず始業・終業の時間、1日あたりの所定労働時間、週あたりの所定労働時間が定められています。決められた時間はしっかり働かなければいけないわけですから、もしも、その義務を満たせていないのであれば、体調を整えるために休むべきです。(200ページより)

義務を満たせていないと「これではダメだ」と自分を追い込みたくなるかもしれませんが、「満たせていないからこそ、体調を整えるべき」だという考え方。

なお、その際には「自分を整える」ことと「環境を変える」ことの両軸で整えていくことが大切だといいます。とくに適応障害の場合、働くなかで発症したということは、働く環境のなかになんらかのストレスがあるということを意味します。

その場合は、自分を整えてストレスに慣れるか、環境を整えてストレスを減らしながら慣れるかの2つしかない。著者はそう考えているそうです。

そもそも定時で働くことが体調的につらいという人は、すでにパフォーマンスが下がっているもの。しかし、下がった状態でそのまま働き続けることは、長い目で見れば誰にとってもよいことではありません。

当然のことながら本人もつらいでしょうし、会社も生産性が下がることとなり、ひいては社会のためにもならないからです。つまり、著者が以下のように主張するのは、そんな理由があるから。

体調不良があり定時で働くことがつらい、体調を理由にした欠勤が増えているといったときには、しっかり休んで100%の自分に戻ってから、その人がもっている能力を発揮してもらったほうが、自分も幸せですし、会社のため、社会のためにもなります。(201ページより)

たしかにそのとおりではないでしょうか。もし体調不良のため定時で働くことが困難なら、まずは定時で働ける体調を取り戻すことを優先するべきなのです。

そして万全のパフォーマンスで会社に復帰することができるのであれば、それは間違いなく最良の方法。もちろん、社会に貢献することにもつながっていくはずです。(200ページより)

心身に不調を抱えながらも、つい働いてしまうというケースは珍しくありません。しかしそれよりも、少し休んでリフレッシュして元気を取り戻し、パフォーマンス高く働き続けるべき。そのほうが、本人に取っても企業にとってもプラスになるはずだからです。だからこそ本書を通じ、適切な休み方を知っておきたいところです。

Source: 中公新書ラクレ

メディアジーン lifehacker
2024年12月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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