狡猾な江戸幕府から天皇を守る隠密を描いた著者絶筆! 大河主人公・蔦屋重三郎が見出した「写楽」ミステリなど【新年おすすめ本5選】

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  • 花と火の帝(上)
  • 浅草寺子屋よろず暦
  • 憧れ写楽
  • 号外! 幕末かわら版
  • バールの正しい使い方

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縄田一男「私が選んだBEST5」新年お薦めガイド

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

『捨て童子・松平忠輝』に引き続き文庫化された隆慶一郎の『花と火の帝』は、家康と二代将軍秀忠による圧力と厳しい締め付けに対抗するべく、幕府と闘うことを決めた後水尾天皇と、“天皇の隠密”たる「鬼の子孫」八瀬童子の流れをくむ岩介らの闘いを描く。

「闘え、だが殺すな」―殺しを禁じられた岩介らに勝機はあるのか。忍びの者と帝が、一個の人間対人間として対峙する凄さ。著者の絶筆となった、未完の構想雄大な伝奇大作。

「これを見過ごしたら、ひとでなくなる」――そんな真っ直ぐな思いが胸に刺さる『浅草寺子屋よろず暦』で、砂原浩太朗は、なんとも爽やかで魅力的な主人公・大滝信吾を生み出した。

 信吾の出自とも関わるストーリー展開の中、武家と町人という垣根を越え、ままならぬ世を明日に向かって懸命に生きる人々が細やかに、温かく描かれてゆく。

 己の「天命」とは何か。人が人として生きるとはどういうことか。人の縁と心の機微を、一人ひとり普通の人々を描くことで浮かび上がらせていく筆致は秀逸。文字通りの大詰めでの高揚感もたまらない。

 版元・蔦屋重三郎によって売り出された写楽―この謎多き絵師の正体探しに新機軸を打ち出したのが谷津矢車の『憧れ写楽』である。

 蔦屋の妨害に遭いながらも、老舗版元・鶴屋喜右衛門は、写楽探しの途上にて、“写楽はふたりいた”ことを知る。その真意は如何に。

 様々な角度から与えられるピースと、写楽の大首絵と、首っ引きで頭を捻る楽しい謎解きの末、魅入られてしまった喜右衛門は、果たして己の本意に気付く。

 苦悩と“憧れ”の果てに見出したものとは。見事な人間曼荼羅である。

「聞いて極楽、見て極楽! 娯楽たっぷりのかわら版」屋が活躍するのが土橋章宏の『号外! 幕末かわら版』である。ペリー来航で揺れる江戸。銀次は、相棒の絵師歌川芳徳と共に日々ネタを探すが、佐久間象山や吉田松陰ら英傑と出会い、訓えられるうち、かわら版屋の使命に目覚めていく。

 次々国難が襲い来る江戸で、「人のために役立とうとする志を持ってこそ人間」という志士の気概に触れ京に旅立つ。これからの日本の夜明けにどう関わるか。今後の展開も期待満載。

 ちょっと不穏な空気漂う題名の青本雪平『バールの正しい使い方』は、二度読み必至の心温まる青春ミステリである。

 父親の都合で転校を繰り返す小学生の要目礼恩。その環境から「新たな世界に擬態する」能力を身に付けるが、行く先々では、様々な理由から嘘をつく子がいたり、「バールの怪人」の都市伝説があったり……。嘘の裏側に隠されたもの、ラストで見つけた居場所とは。バールは正しく使いたい。

新潮社 週刊新潮
2025年1月2・9新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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