『経済学者のすごい思考法』
- 著者
- エリック・アングナー [著]/遠藤 真美 [訳]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784152103802
- 発売日
- 2024/11/20
- 価格
- 3,300円(税込)
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経済学はどこで役立っているのか。最新の成果を踏まえて書かれた良書
[レビュアー] 田中秀臣(経済学者)
経済学を役立てるのって難しい?
日本人は経済学が大好きだ。最新のノーベル文学賞受賞者の作品が翻訳されていなくても、経済学賞の主要著作はだいたい訳されていて、場合によっては受賞前から文庫にもなっている。アダム・スミスの『国富論』やケインズの『一般理論』といった古典は、いまも現役バリバリで読まれている。ところが経済学が役立つかという問いを学生や社会人にしてみても答えは芳しくない。経済学がどこで役立っているのか、具体的なイメージがつかないせいもあるだろう。また日本では、20世紀前半から反経済学(マルクス経済学が代表的)の勢力が強い。経済学のライバルの威勢がいいので、経済学自体が読まれている側面もあるだろう。まるで昔の巨人・阪神戦みたいだ。
本書は、経済学とは何か、経済学はどんなところで役立っているのか、最新の経済学の成果を踏まえて書かれた良書だ。特に最大の売りは、経済学が21世紀になって急速に変貌を遂げている最新の動向をわかりやすく解説している点にある。経済学の変化を一言でいえば、「経験的転回」を迎えたことだ。要するに経済学のデータサイエンス化である。スミスやケインズのように重厚長大な理論を構築するのではない。膨大なデータを処理して、エビデンスを得ることでさまざまな課題を解決していく手法がいまの経済学の中核だ。身近な問題(子育て、腎臓の移植手術、お金の儲け方など)から社会問題(貧困や気候変動など)までを、実証科学として経済学が取り組んでいることがよくわかる。経済学の入門書は数多いが、経験的転回を踏まえて解説した本は数少ない。なので、この本を読めば、経済学の最新トレンドを掛け値なしに知ることができる。もちろんライバルの反経済学ともばっちり戦っている。
また解説もいい。若田部昌澄早稲田大学教授が解説を書いた経済書に外れはない。これもエビデンスがある重要な経済学の法則だ。