『石山賢吉の決算』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『石山賢吉の決算 ダイヤモンドの政治はあるか』佐藤彰宣著
[レビュアー] 福間良明(歴史社会学者・立命館大教授)
経済誌の老舗と言えば『東洋経済』と『ダイヤモンド』だろう。前者については、主幹を務めた元首相・石橋湛山が思い起される。それに対し、大正初期に後者を創刊した石山賢吉の名は知られていない。
石山はダイヤモンド社を創業のかたわら、戦後初期には代議士を務めた。経済閣僚候補に名があがることもあった。本書は石山の生涯を跡付け、経済誌と政治の関係を検討している。
「不良苦学生」だった石山は、上京後、慶應義塾商業学校に進んだ。この実業中等学校への進学が、人生の転機となった。石山は財務知識を吸収するとともに、「言論ギャング」と呼ばれた野依秀市や社会主義者と知り合った。当初は野依の雑誌で働くも、企業財務を評する『ダイヤモンド』を創刊した。主に「公経済」を論じた『東洋経済』とはやや異質だったが、「私経済」の取材は、政財界や労働界の人脈形成につながった。
終戦後は芦田均のブレーンとなった。国政当選は一度だけだが、世話好きな人柄も相(あい)俟(ま)って、舞台裏で政財界人のパイプ役を務めた。見過ごされがちなメディア史に光を当てた好著である。(創元社、2970円)