『マイナーノートで』上野千鶴子著

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マイナーノートで

『マイナーノートで』

著者
上野 千鶴子 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784140819777
発売日
2024/10/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『マイナーノートで』上野千鶴子著

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

 好き嫌いを訊(き)かれると、「何でも食べます、人も食いますから」とニッコリする著者は、当代最強のフェミニスト。『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(遥洋子著)がかつてベストセラーになるなど名前はすでにブランドである。

 その最新エッセー集は題名通り短調の調べで、いつもは元気印の著者が、「他人さまには見せない」姿をつづる。本と犬だけがお友だちの少女時代、短慮から人を傷つけ、傷つけられもした若き日、あふれるほど衣類があるのに思い出が捨てられず、片付けが苦手なわたし、「子どもを産んだことのないあなたに、女の何がわかるのよ」と難詰されたこと……。

 いつもの気(き)っ風(ぷ)のいい言動、鋭い論理ではなく、戸惑いやため息、そっと差し出す小さなつぶやきと、年とともに増える別れの悲しみがある。

 戦争とジェンダーを考えるエッセー〈娘が戦争に志願したら?〉では自らの無力を吐露する。腰椎圧迫骨折した転倒事故では、はじめて「おひとりさまの老後」をリアルに考えたと告白する。ここには上野さんの体温を感じる文章がある。(NHK出版、1980円)

読売新聞
2025年1月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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