『ぶち壊し屋(上)』
- 著者
- ピーター・ベイカー [著]/スーザン・グラッサー [著]/伊藤 真 [訳]
- 出版社
- 白水社
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784560091272
- 発売日
- 2024/09/28
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『ぶち壊し屋(下)』
- 著者
- ピーター・ベイカー [著]/スーザン・グラッサー [著]/伊藤 真 [訳]
- 出版社
- 白水社
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784560091289
- 発売日
- 2024/11/26
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『ぶち壊し屋』ピーター・ベイカー/スーザン・グラッサー著
[レビュアー] 佐橋亮(国際政治学者・東京大教授)
異形の大統領の4年間
あと2週間あまりで再始動するトランプ政権。前回の実態は秘密のベールに隠されているわけではない。ベテラン記者夫妻は数百のインタビューを取り、類書を超える重厚さで4年間を一貫した視点で描き出す。これからを考えるための必読の書だ。
一つ目の視点は、タイトルにもなった「ぶち壊し屋」だ。歴代大統領は米国という多様性のなかに統一を計ることを目指してきたが、トランプ氏は人種や民族、宗教といった亀裂を広げることで政治的な目的を果たそうとしたという。「私はウィン・ウィンというものを信じない。私が信じるのは、私が勝利(ウィン)することだ」。そう語るトランプ氏が、保身と名誉のためにいかに政治を使い倒したのか、本書は描き出す。
第二の視点は、「場当たり体制」ともいえる政権内の混乱ぶりが4年間全く変わらなかったということだ。野心の実現のために政権入りした高官たちを待っていたのは、終わりのない派閥闘争であり、いつクビになるかもしれない恐怖との生活だった。大統領はそうした状況をむしろ好んだ。
不法移民問題で、子どもを親から引き離すことも厭(いと)わない強硬論に抵抗しようとした人々も描かれる。ホワイトハウスや国防総省に多く登用された将軍たちも、突飛な発想を食い止めるべく役割を果たそうとした。だが、歯を食いしばって居残っても、最後は追い出される。政権末期には、忠誠心こそが人事の決め手だった。
外交やコロナの感染拡大が中心に描かれているので、経済の掘り下げがないなど若干の物足りなさはある。それでも、専門知識のないものたちが専門家を押しのけていく場面の連続に、読者は身震いするだろう。これが超大国の最高意思決定過程なのかと。
著者たちの結論は、連邦議会襲撃事件が起こる2021年1月6日への道は、最初から敷かれていたということだろう。伊藤真訳。(白水社、上下各3960円)