『日本ファッションの一五〇年』
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<書評>『日本ファッションの一五〇年 明治から現代まで』平芳裕子 著
[レビュアー] 和田博文(東洋大教授)
◆西洋化社会の変容 明らかに
本書は日本人が西洋の洋服と出会った幕末・明治初期から、ユニクロやZOZOTOWNが流行する現在まで、ファッションの150年間を250ページにまとめている。しかし内容が薄い概説書ではない。ファッション史を通して、社会や文化がどのように形成されたのか、人々の思考や行動がどう変容したのかを明らかにする好著である。
19世紀後半に西洋列強と肩を並べるため、日本は西洋化・近代化を可視化する必要に迫られた。その結果、男性の洋装は早期に実現する。しかし女性に洋服が普及し始めるのは、西洋でコルセットの駆逐というファッション革命が起きた20世紀前半である。ウエストではなく肩を起点とする直線的なシルエットの洋服は、直線的に裁断する和服に馴(な)れた日本女性も受け入れやすい。やがて都市空間を闊歩(かっぽ)するモダンガールの姿が目立つようになった。
戦後80年間のファッション史を洋裁学校や百貨店、デザイナーやアパレルメーカー、プレタポルテやファッション誌を切り口に紡いでいく。世間の耳目を集めた竹の子族やジュリアナ東京、アメカジやコギャル、ロリータファッションや森ガールが歴史の一コマに配置され、読者は興味深く読み進められるだろう。
本書で特に見事なのは、戦前と戦後を地続きに捉えたことである。衣料が配給制になり、贅沢(ぜいたく)は敵という声が巷(ちまた)に溢(あふ)れた太平洋戦争下は、ファッションの空白期と見なされがちである。総動員体制下で男性は、国民服を着用するようになった。この歴史的体験が、戦後のスーツという強固な同調主義を生み出したと、著者は記している。
他方で厚生省は婦人標準服を奨励し、甲型(洋服型)と乙型(和服型)を用意した。しかし女性たちは、どちらもおしゃれでないと受け入れない。彼女たちが選んだ活動的なモンペは結果的に、洋服への道を準備した。敗戦後に女性は洋裁学校に押し寄せる。お手本はアメリカの流行。新しい布が不足していたため、和服は解(ほど)かれて布地に戻り、洋服に生まれ変わっていった。
(吉川弘文館・2090円)
1972年生まれ。神戸大大学院准教授。『東大ファッション論集中講義』。
◆もう1冊
『化粧の日本史 美意識の移りかわり』山村博美著(吉川弘文館)