トイレ改修ができず、電灯さえつけられない…劣化していく「国立大学」の悲惨な姿を追うノンフィクション

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限界の国立大学

『限界の国立大学』

著者
朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784022952912
発売日
2024/11/13
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

こんな大学に誰がした! 優等生が残らない必然

[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)

佐藤健太郎・評『限界の国立大学——法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班[著]

 商売柄、優秀な大学院生に話を聞く機会が多くある。近頃顕著に感じるのが、優秀な者ほど大学に残らないという傾向だ。一昔前なら看板教授になっていたであろう人材が、さっさと外資やベンチャーに就職するか、活躍の場を求めて海外に移ってしまう。この国の研究は先行きどうなるやら、と思わざるを得ない。

 そうなる理由ははっきりしている。大学という場所が、職場としてあまりに過酷になってしまったためだ。助教になるための競争は激しく、そこにたどり着いても数年の任期を終えればまた新たな職を探さねばならない。教授になれても、膨大な雑務に追われて研究もままならない。生活の目途さえ立たない道を、最優秀な若者たちが選ばないのは、ある意味当然なのだ。

 朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班による『限界の国立大学 法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』は、克明な取材によって、追い込まれた国立大学の現状を描き出した一冊。国立大学は、本来イノベーションを生み出し、地方を支える人材を育てるべき存在だ。しかしその運営費交付金は毎年減額されており、トイレの改修もできない、電灯さえつけられないという窮状を呈している。

 こうした大学の劣化を招いたのが、国立大学法人化以降の政策であることは、これまでにも本書でも指摘されている。そこに関わった官僚へのインタビューも掲載されているが、現状に対していささかの反省の色もないのが、実に印象的だ。

新潮社 週刊新潮
2025年1月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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