『メアリ・シェリー』
- 著者
- シャーロット・ゴードン [著]/小川 公代 [訳]
- 出版社
- 白水社
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784560091449
- 発売日
- 2024/12/02
- 価格
- 2,420円(税込)
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社会の抑圧に抗う人間の姿を現代に問う
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
『フランケンシュタイン』と聞けば未読の人でさえ、つぎはぎだらけの“怪物”の姿を思い浮かべる。一方、その傑出した作品を書き上げたのがメアリ・シェリーという名の女性だということ――例えば執筆当時まだ十代の少女だったことを含め、その後三十年にわたり自らの筆で家族や友人の生活まで支えたという事実のほうは、大衆にはほとんど知られてこなかった。
この非対称性に鋭く切りこみ、彼女自身の生きた軌跡を丹念に追うことで、社会の抑圧に抗う革新的な人間の姿を作品の価値と同時に浮かびあがらせたのが本書だ。一般的にキャッチーとは言い難い評伝というジャンルながら発売後すぐ話題になり、新聞書評が出る前に重版が決定するなど異例の売れ行きをみせている。
「人文書はこの三十年、学術的に精緻かつ専門的になってきましたが、この本は“どう生きるのか”を読者ひとりひとりにストレートに問いかけてくる。いわゆる英雄史観ではなく、社会制度によって決定づけられている個人の姿をあぶりだし、その奮闘を写しとっていく点に眼目があります」と白水社の担当編集者、竹園公一朗氏は熱く語る。
女性解放運動の先駆者ウルストンクラフトの娘として生まれ、ロマン派の詩人パーシー・シェリーと十六歳のときに駆け落ちし、私生児を産んだメアリ・シェリー。女性の社会的自立のために邁進した彼女の功績が過小評価されることになったのは、ヴィクトリア朝時代の保守的な読者にできるかぎり受け入れられるよう、彼女の死後に義理の娘が「外聞の悪い過去」を秘匿したからだという。
「十九世紀は“わたし”という個人が社会と初めて向き合うことになった時代。制度から弾き出されてしまうシングルマザーの窮状をはじめ、ここに書かれている問題は今の日本の社会状況にも通じますよね」(同)
翻訳と解説は“自助”の価値だけを求める社会に疑義を呈し、文学の領域からケアの倫理を押し広げてきた小川公代氏。「メアリ・シェリーも小川さんも社会を諦めないで“わたし”を保っていく政治に取り組んでいる。そこに共感する読者が多いんだと思います」(同)。