『柚木麻子のドラマななめ読み!』柚木麻子著

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柚木麻子のドラマななめ読み!

『柚木麻子のドラマななめ読み!』

著者
柚木麻子 [著]
出版社
フィルムアート社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784845923311
発売日
2024/10/26
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『柚木麻子のドラマななめ読み!』柚木麻子著

[レビュアー] 長田育恵(劇作家・脚本家)

制作現場、社会も照らす

 休暇でドラマを楽しんだ方、日常に忙殺される前の常備薬としてぜひ本書を。コロナ禍の自粛中には『愛の不時着』がライフラインだったというドラマ愛溢(あふ)れる著者による、ドラマに関する明るく鋭いレファレンスが詰まった一作。

 本作の軸は二〇一四年から十年間『an・an』に連載した地上波ドラマを三話まで見て書くという主旨のエッセイ群。その体裁の枠を越え、一つのテーマから数作の国内外のドラマが紐(ひも)解かれることもある。驚くほど膨大な記憶のアーカイブから、明朗快活に紹介される数々のドラマと出会う喜び。テーマの切り口が面白い上に、場面を紙上再現する筆が俳優の演技もいきいきと想像させてくれる。さらに今後は自分なりの視点を見つけたくなるなど「ドラマの楽しみ方」を増やしてくれる効能まで備える。

 一方、かつての地上波ドラマで「応援すべき恋愛として描かれている多くが、今の価値観だとモラハラ」という指摘も鋭い。ジェンダーや恋愛観、性加害への対応、料理好きキャラクターに付加されるものなど、ドラマの功罪にも踏み込む。「ドラマの中で是として描かれていると、実際に同じ目に遭っても『ま、いいか』と思いがち」という著者の体験に胸が詰まった。

 また掉(ちょう)尾(び)の「原作者が尊重され、守られるように」と題されたエッセイを私は心に刻む。現在の著者はドラマの原作者の立場にもなるが、大学の頃は制作会社でドラマ化できそうな漫画や小説を探し、企画書を書くバイトをしていたという。かつて原作を素材として見てしまったことはなかったかと自戒をもって語られる。ドラマ制作は巨大なプロジェクト。視聴者が「加害に加担させられかねない」恐れを完全に排するためにも制作体制への自省は必須だ。

 本書が照らすのは、記憶に残るドラマのみならず、社会と制作現場の現在だ。ドラマのアップデートは社会の成熟と無関係ではない。私も一端を担う者として自覚と勇気を与えられた。(フィルムアート社、1980円)

読売新聞
2025年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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