『海猫沢めろん随筆傑作選 生活』
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『海猫沢めろん随筆傑作選 生活』海猫沢めろん著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
著者のデビュー二十周年記念作。二十年ぶんのエッセイからより抜いて、時系列にまとめた一冊だ。方向性は、冒頭に収められたエッセイの力強い一文からうかがえる。「私があこがれていた作家とは、学歴もなく実家が細く、ろくに仕事もせず小説を書かない生活破綻の貧乏人であり、刹那のきらめきを求める唾棄すべき穀潰(ごくつぶ)しである」
読んでみると、基本的に金がないと言いつづけている。そのわりに、あっけらかんと自由に生きている。少なくともそう見える。それが爽やかで頼もしい。といって、ミニマリスト的な生きかたを啓蒙(けいもう)して押しつけてくるわけでもない。この塩梅(あんばい)が心地いい。
内容は身の回りのことや、それをめぐる思索が多いだろうか。それを二十年ぶん集めたわけだから、事実上の私小説だ。そして明らかに破綻を志向しながら、酒も煙草(たばこ)も薬物も性のあれこれもない。これについては最後で本人も言及していて、「新時代の無頼派は、クリーンなのに破滅に突き進むのである」とのこと。現代的なる私小説がどうあるべきか、それを問う一冊かもしれない。(河出書房新社、2750円)