『進化論の知られざる歴史 ダーウィンとその<先駆者>たち』レベッカ・ストット著

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進化論の知られざる歴史

『進化論の知られざる歴史』

著者
レベッカ・ストット [著]/高田 茂樹 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784867930465
発売日
2024/10/23
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『進化論の知られざる歴史 ダーウィンとその<先駆者>たち』レベッカ・ストット著

[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)

探究二千年 知の人物史

 科学史の分野から発せられる好企画だ。原著は十年以上前に刊行されて、既に高い評価を得ている。時間が経(た)っていることを考えると、今回の刊行が想定する読者層は専門家ではなく、幅広く一般の人々だろう。多くの読み手の興味に応えることが期待される。

 日本語版も原著の味わいを巧みに受け継ぐ良書だ。チャールズ・ダーウィンの『種の起源』以前に、人類による生命の認識がどのように発展したかを語る。定番だが、アリストテレスから、ダ・ヴィンチ、ラマルク、キュヴィエ、ウォーレスといった、名だたる自然哲学、解剖学、博物学の面々が登場する。アリストテレス後の動物学の空白に、アッバース朝時代のアラブの学者、ジャーヒズの活躍を採り上げ、著作『動物の書』に光を当てたことに感謝しよう。

 内容の多くは、必ずしも進化論や『種の起源』を終着点として意識したものではない。本書は、ざっと二千年を超える科学史を走り抜け、各時代の知を代表した学者の凄(すさ)まじい探究心を追い続ける。十九世紀に至る学者たちが、自然界への好奇心をどのように沸き立たせ、森羅万象をどのように整頓してきたかを掘り下げる、知の人物史だといってよい。普段自然科学にまったく関心のない読者でも、落ち着いた展開で積み重ねられる自然界の記述と解明の歴史に、深い興味をそそられることは間違いない。

 古い話だが、十代以降の私には、『進化論講話』(丘浅次郎)、『進化学序論』(八杉竜一)、『個体発生と系統発生』(スティーヴン・ジェイ・グールド)といった、博物学・進化学の書物との出会いがあった。『進化学序論』は専門書然とした装丁だったが、丘は文庫化され、グールドもノンフィクションの棚で大々的に売られていた。だが、本が次々絶版になっていくいま、本書のような博物学史の良書は減ってしまっている印象がある。科学哲学好きにこの刊行は有難(ありがた)い。高田茂樹訳。(作品社、3960円)

読売新聞
2025年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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