『FBI爆発物科学捜査班』
- 著者
- カーク・イェーガー [著]/セリーン・イェーガー [著]/露久保 由美子 [訳]/木内 さと子 [訳]
- 出版社
- 原書房
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784562074631
- 発売日
- 2024/09/25
- 価格
- 2,750円(税込)
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『FBI 爆発物科学捜査班 テロリストとの30年戦争』カーク・イェーガー/セリーン・イェーガー著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
「爆弾博士」の実例分析
凶悪犯罪者の心理プロファイリングという捜査手法を一躍有名にした『FBI心理分析官』(一九九四年)の大ヒットをきっかけに、今日まで様々な種類のFBI本が著され、その多くが翻訳されて私たちの目に触れてきた。ただし、爆発物捜査班だけに焦点を絞って一冊にまとめた書籍は、たぶん本書が初めてだと思う。著者はFBI犯罪科学研究所の爆発物課で科学調査官を務めた爆発物の専門家。共著者は妹で、他にも多くの著作を持つジャーナリストだ。
先にひとつお断りしておきたい。本書では、米国内はもちろんのこと、(著者が捜査支援のために派遣された)世界のあちこちで発生した爆発物による事件の詳細が次々と紹介される。そもそも「爆発」とは科学的にどんなことが起きる現象で、それが物理的に周囲にどんな影響を与えるのか。爆発に巻き込まれた人体はどんな被害をこうむるのか。簡潔で的確な言葉を積み重ね、実例を分析しながら著者は私たちに教えてくれる。それを読み続けていくと、かなり辛(つら)い。すべて実際に起きた事件であり、そこには巻き込まれた多くの犠牲者がいる。著者が生身で捜査と分析に関わったことだから、描写の隅々にまでリアリティが満ちている。
一九九五年四月十九日の朝、著者が若きポスドク研究員としてテロ対策のシンポジウムに出席していたまさにそのとき、オクラホマシティの連邦ビルが爆破される事件が起きた。これが著者の「爆弾博士」としてのキャリアの出発点だ。全十二章にわたってその歩みを再体験してゆくなかで、たとえば第九章「首輪爆弾」事件のように、発生当時のショッキングな報道を思い出すこともある。著者の研究者としての誠実さ、科学捜査官としての勇気には敬服するしかない。印象的なフレーズも多々ある三百ページ余のなかで、「どの国もいずれはそれぞれの9・11を経験する」という言葉がずしんと重い。露久保由美子・木内さと子訳。(原書房、2750円)