『フィールドワークってなんだろう』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『エスノグラフィ入門』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『フィールドワークってなんだろう』金菱清著/『エスノグラフィ入門』石岡丈昇著
[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)
多様な価値観 出会い促す
この年末は書店がずいぶん賑(にぎ)わっていたようです。「積ん読」のままだった本を読み進めた方も多いことでしょう。いろいろなことが手軽にわかるようになりながら、私たちは時間をかけて本を読むのですから不思議なものです。
それだけではありません。時間をかけて調べ、書き、公にする方も増えました。かつて評論家の武田徹さんが「一人ジャーナリズム」を提唱されていましたが、それは現実のものとなったようです。
さまざまな生き方、価値観が表明され、世の中は多様になりました。多様であることがようやく前提になってきたというべきでしょうか。
それだけに知らなかった価値観に出会うことが増えました。知りたい、考えたい。でも、手元の知識では叶(かな)わない。部屋を出て、訪ねて、話してみなければわからないことばかりです。
でも、ちょっとしり込みしてしまいますよね。そんなとき、この二冊が背中を押してくれます。前者は現場に通いながら学ぶフィールドワークから、後者は人の生活を描くエスノグラフィからその方法を教えてくれます。
調査者たちの取り組みも、フィリピンのボクシングジムから見える貧困の構造、家族を失った人に現れた霊から考える喪失と納得のための時間など、私たちの関心を掻(か)き立ててやみません。本書の大きな魅力でしょう。
そう読み進めていくと、私たちがもっと身近な、ふだんの生活のなかで見過ごしていることに気付かされます。
ありもののラベルにあてはめるのではなく、現場に通い、現実と距離を縮め、理論や文献と往復し、対比して考える。そして、書く。この二冊が示す向き合い方は、こうした往復のなかから、自分の凝り固まった見方をときほぐし、問い直すものだからです。
新しい一年のはじまりに、遠くの世界に思いを馳(は)せながら、近くと感じていた世界の見え方が変わる思いがしました。フィールドはそこここにあるのだと。(ちくまプリマー新書、880円/ちくま新書、1056円)