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極度の冷え性。シャワーは熱湯、温活サプリに漢方、夕食は激辛。「身体」をめぐる物語を三選
[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)
吝嗇な恋人の話ではない。
石田夏穂『ケチる貴方』の語り手は、備蓄用タンクの設計と施工を請け負う会社で働く佐藤。彼女は極度の冷え性体質に悩まされている。あらゆる温活を行い、朝晩のシャワーは火傷すれすれの熱さ。サプリも漢方も試し、夕食は激辛料理。しかし何をしても身体は温まらない。常に、寒い。彼女はたっぷり付いている脂肪を薪にたとえて自分の代謝機能に語りかける。〈頼むから、ケチらずに使ってくれないか〉。そう、ケチる貴方とは脂肪を燃やさず熱を生み出さない、ガンコな身体のことなのだ。
あるとき、体温が突然人並みに上がって彼女は驚く。喜んだものの半日ほどで元に戻ってしまい、ガッカリ感はハンパない。ところがその現象はまた起きる。もしかして、と彼女は会社での出来事を思い出す。これは自分が〈珍しく寛容を発揮〉したことと関係があるのではないか――。
タイトルのもうひとつの意味が浮かび上がってくる展開がすばらしい。職場環境と仕事の内容をきれいに主題にシンクロさせ、盛り込んだ要素を無駄なく使った全然「ケチって」いない小説が、主人公のケチさを存分に描いていて最高だ。
同時収録の「その周囲、五十八センチ」は、脂肪吸引に耽溺する女性の物語。〈私は、人は外見だと思う〉〈人は外見でしかないと思う〉と彼女は主張する。姫野カオルコ『整形美女』(光文社文庫)は、美しくありたいと願うことの根幹に何があるのか、美人とはそもそも何なのかを、2人の女性の選択を通じて問う異色作。美容整形の是非がテーマではないところがこの作者ならではだ。
乃南アサ『躯 KARADA』(文春文庫)は、肉体のパーツにまつわる人間の欲望を表出させた短編集。娘の整形に渋々付き合った母親が若返り願望にとりつかれる「臍」など5編を収める。
社会の底辺で苦しむ男性がボクシングに目覚め、徐々に自分らしい生活を得ていく様を描いた「顎」が特にいい。やるせない温かさと苦さに満ちた、SFのような結末が印象的。























