『書庫をあるく』
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『書庫をあるく』南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)著
[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)
図書館は雪のようだと思う。本が棚となり、館が建ち、人が集まる。核から氷へ、そして雪となり、人を集める。ひとつのかたちに留(とど)まることなく、土地により、時代により、姿かたちを変えていく。
そんな姿を見てみたくて、出張に行くとつい図書館に寄ってしまう。足が向くのは郷土の棚。土地の魅力が詰まっている。
著者も同志と興奮して本書を手に取ったが、その行動は想像を超えていた。閉ざされた書庫の扉を開けて分け入っていくのだ。あやしいにもほどがある。
地域の知を集め、戦争を乗り越え、受け継がれてきた書庫。作家や学者、患者や会社のコレクションを絶やさず手入れした文庫。著者は居並ぶ本から、かかわった人の想(おも)いを読み取る。
各地に図書館が作られていくのは二〇世紀のはじめだから、一二〇年ほどが過ぎた。雪は解けるが本は積みあがる。
本書で紹介されるように、書庫を切り出した展示やバックヤードツアーが行われている。魅力にあふれた書庫を開き、活(い)かす取り組みがはじまっている。(皓星社、2530円)