『地図なき山』
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【『地図なき山』刊行記念対談】東出昌大×角幡唯介/獲って、悩んで、生かされて
[文] 新潮社
探検家・作家の角幡唯介さんと俳優の東出昌大さん
人跡未踏といわれたチベット奥地の谷を踏査した記録『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』や、太陽の昇らない冬の北極探検を描いた『極夜行』など、数々の冒険ノンフィクションを発表してきた角幡唯介さん。
グルメサイトや地図アプリなど、情報に覆われた社会に疑問を抱いた角幡さんが最新作『地図なき山 日高山脈49日漂泊行』(新潮社)で挑んだのは、地図を持たずに日高の山を登ることだった。
地図という原始的システムから脱した先に待ち受けていた極限の冒険に驚愕しつつも、その行為に自身の体験を以って共感するのは、北関東の山小屋で狩猟生活を営む俳優の東出昌大さん。
自然のなかに生きるとはどういうことか? 生きるためとはいえ、動物の命を奪っていいのだろうか?
「生きる」という行為の本質を追い求める二人が、東出さんの山小屋で語ったエピソードを紹介する。
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東出昌大(以下:東出) はじめまして! 遠いところをありがとうございます。
角幡唯介(以下:角幡) いいなあ、猟場がすぐ近くにある山暮らし。僕はいま鎌倉に住んでるんですけど、こういう生活、本当にうらやましい。
東出 11月15日に狩猟が解禁されたので、鉄砲を持って猟に出てばかりいます。毎年この時期、役者業はお休みです。
角幡 このあたりだとシカは多いですよね。ほかには何が獲れますか?
東出 いまはクマを狙ってます。ツキノワグマです。
角幡 難しいでしょ、クマは。
東出 はい。まず数が少ないですし、あまり足跡を残してくれないので追いづらいんです。単独の忍び猟(山を歩いておこなう狩猟)ではまだ一度も獲れていません。遭遇確率からして低いので、本気でクマを狙うなら毎日猟に出ないといけない。今日も雨が降ってますけど、行ってきました。
角幡 わずかな足跡や木に残された爪痕を追うために、彼らが食料にしている山ブドウやコクワがどこに生育しているかを頭に入れて、行動を予測しなくちゃいけないんですよね。山全体の知識が要求されるから、そこに住んでいないとなかなか難しい。僕が初めてクマを獲ったときは、とにかく運が味方してくれました。4年前に北海道で免許を取って狩猟をはじめたんですが、なんとその年にいきなり羆を獲れたんです。
東出 え、1年目でですか!?
角幡 本当にたまたま。秋頃、シカを獲りに1週間くらい山に籠っていたんです。もうそろそろ帰ろうかなっていうときに、車で走り出してすぐ、林道の近くに羆がポツンと立っていて。たぶん、1~2歳くらいだったんじゃないかな。
東出 親離れしたばかりの子ですかね。
角幡 30メートルほど離れたところからハーフライフルで仕留めました。弾が入った瞬間に森のなかに走って姿を消したので、探すときはちょっと怖かったですね。手負いだと逆襲してくることもあるので。10メートルぐらい先で死んでたけど。
東出 すごいなあ。そうだ、この肉見てください。
角幡 お、アナグマですか?
脂身てんこ盛りのアナグマ肉。お味やいかに……
東出 はい、近くの山にいた子で。先日知り合いの方から「罠にかかってるアナグマがいるよ」と連絡をもらって、止め(とどめを刺すこと)に行ってきたんです。「アナグマのすき焼き」を作るので、のちほどぜひ召し上がってください!
角幡 ありがとうございます。アナグマ、初めて食べます。それにしてもすごい脂ですね、ほとんど真っ白! 胸やけしないかな……。
東出 そう思いますよね。でも全然重たくなくて、とってもおいしい脂なんですよ。