『生きるためのデザイン思考』
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【毎日書評】凡人の日常にイノベーションを起こす方法論「デザイン思考」とは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『生きるためのデザイン思考』(渡辺 拓 著、フォレスト出版)において著者が重視しているのは、「先の読めない時代においても、自信をもって一歩踏み出し、新しい価値を生み出していける思考法」。それらを実践すれば、現代を生きていくうえで大きな意味を持つさまざまな力が身についていくというのです。
注目すべきは、論理よりも感情、左脳よりも右脳の重きを置いている点です。
AIが左脳・論理の役割をやってくれる今、人間らしく生きるために必要なのは、感情・感覚を大切にすることです。
左脳は顕在意識を、右脳は潜在意識を管理していると言われています。
つまり、右脳と感受性を大事にしていくこの思考法は、潜在意識を活性化させていく思考法でもあります。
(「はじめに――先の読めない時代の『超デザイン思考』」より)
また、情報が増えたことで起こってくる、「うまくいってるけど、なんだか違う気がする」「どれも想像できて、逆にやることがない」「なんとかしなければいけないのに、なにから始めたらいいのかわからない」といった“わからない退屈・不安・焦燥感”も解決できるのだとか。
なぜなら、このような「グルグル思考」になるのは、問題に対して、これまでの経験、“過去”から、左脳・論理的に考えてしまっているからです。
この新しい思考法では、過去の延長線上にない“未来”を見すえて、右脳・感受性をフル活用、これまでにない発想で解決していきます。(「はじめに――先の読めない時代の『超デザイン思考』」より)
なお、“わかる、しかし、つまらない”日常から、“わからない、だけど、おもしろい”非日常へと飛び出していくことを著者は「超デザイン思考」と呼んでいます。そして、そのもとになっているのは、「デザイン思考」というビジネス問題解決の思考法。
ちなみに、デザイン思考と従来の問題解決法との相違点は3つあるようです。果たしてどんなものなのでしょうか? 第1章「本人の日常にイノベーションを起こす『超デザイン思考』」内の「これまでの問題解決法との違い」に焦点を当て、それらを確認してみたいと思います。
1.「枠の中」よりも「枠の外」
従来の問題解決は、いまある状況を把握し、整理して、「問題点はここだ」と見つめていくようなものであったはず。見えているもの、考えていることに基づいて、解決策をあぶり出すようなものだと解釈できるでしょう。一方、デザイン思考は、そういった思考の枠を超えているというのです。
・自分で考えるだけでなく、お客様へインタビューしてみる。
・お客様が口にしたことだけでなく、その奥にある深いニーズを洞察する。
・皆が求めるものではなく、たった一人の深いニーズに踏み込んでみる。
(17ページより)
たとえば、これらがいい例。実践方法はさまざまですが、共通点があることがわかります。すなわちそれは、“表面的に見えている枠のなかで考えるのではなく、自分にはまだ見えていない、新たな発想を求め、「思考の枠の外を探っていく」”という姿勢であるわけです。(16ページより)
2.「失敗しない計画を守る」よりも「失敗して学んで軌道修正」
モノが少なかった過去の時代においては、実行のためのコスト(お金・時間・労力)が大きいため、失敗のリスクもまた大きすぎたという側面がありました。そのため、あらかじめ「失敗しないように計画する」ことが求められ、その「計画を守る」ことが重要視されてきたわけです。
しかし現代では、さまざまな望みを叶えてくれるアプリやサービスが多数生まれています。生成AIも含めたそれらは実行のためのコストも低いため、「時間をかけるくらいならまずやってみよう」というスタンスが一般的なものになったのです。
逆にいえば、実行に時間をかけていたら、それだけで“時代遅れ”のレベルになってしまう可能性すらあるともいえそうです。また、周囲の変化も激しいだけに、計画を守ることよりも、どんどん軌道修正をしていきながら、新たな解決法を探すという方法が重要だとも解釈できるわけです。(16ページより)
「早く失敗して多く学べ」という意味の言葉があるくらい。「試行=思考」のサイクルを多く回すことが、デザイン思考では重要です。(17ページより)
3. 「左脳・論理よりも右脳・感受性」
デザイン思考のベースは「共感の技術」であるといわれるほど、心の感覚に注目する必要があるのだと著者はいいます。たとえば、「お客様はどのような気持ちなのか」を追体験して想像してみることなどがそれにあたるわけです。
その際、自分のこれまでの思考パターンや先入観で判断すると、本当に必要なアイデアを見落とすことがあります。
したがって、自分の思考だけで考えるのではなく、あらゆる感覚を駆使してアイデアを出していきます。
その際に、これまでの論理パターンから離れて、互換を用いた右脳でのひらめきが必要になってきます。(19〜20ページより)
重要な話を聞こうというとき、「肌で感じろ」などと表現することがありますが、まさにそのような感じだそう。
情報量の多い現代は“左脳偏重”の時代だともいえますが、だからこそ新たに右脳の力が求められるのも事実。つまり、その役割を担うのがデザイン思考だということです。
総じて・デザイン思考の実践には――
・過去や前例にとらわれない柔軟な発想
・どんどん試していく軽やかな行動力と前向きなマインド
・いろんな人のものの見方を行き来するような自由は視点
――が求められます。(19〜20ページより)
というよりも、この思考を実践していくことによって、こうした姿勢は自然と身についてくるのでしょう。具体的な手段などを考えるよりも、マインドセットとして身につけることが重要だということです。(19ページより)
本書で紹介されているのは、“凡人の日常にイノベーションを起こす方法論”だと著者は述べています。過去の自分にはなかったポテンシャルを実感し、新鮮な変化や驚きを感じることのできる日々を送るため、参考にしてみてはいかがでしょうか。
Source: フォレスト出版