『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』
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バレリーナの過酷で泥臭い生活感 密着YouTubeドキュメンタリー
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
子どものころ「バレエを習っている」女子は特別な存在だった。背景にあったのは少女マンガだ。当時はバレエの少女マンガが全盛期。私も大好きで山岸涼子「アラベスク」は全巻どこかに仕舞ってあるはずだ。
そんな夢の世界であるはずのバレエ団の実際の経営はいま火の車。起死回生の手段として選ばれたのがYouTubeの動画配信だ。それも「バレエを知らない人へのアピール」としてバレリーナの密着ドキュメンタリーを撮ってほしいという。
依頼主は「谷桃子バレエ団」。この世界では老舗である。それなのに所属するバレリーナたちはバレエだけでは食べていけず、バイトを掛け持ちしている。実力のあるダンサーの拠点はほとんどが海外だ。
ただ日本では習い事としてのバレエは盛んで、バレエ人口は25万人以上。子どもだけでなく、大人のためのレッスンもスポーツの一環として老若男女問わず人気が高い。
「面白くなるかもしれない」。バレエ素人のカメラマンは密着取材を敢行した。そして現実を目の当たりにする。ダンサーたちの生活は想像以上に過酷だったのだ。
撮影したのはバレリーナたちが住む部屋や食事、バレエ団の経営の裏側まで。煌びやかな世界とは反対の、汗と涙が飛び交う泥臭い世界がYouTubeを通して暴露された。本書はその記録である。
カメラは回しているものの、プライベートの場で彼女たちの熱意や悩みを聞き、公演までの過程に密着しているうちに、著者は徐々に冷静ではいられなくなっていく。最近流行りの言葉でいえば「沼に嵌って」いった。
1年間の密着取材の結果、動画は反響を呼び、チケットが即完売になるなど谷桃子バレエ団の目論見は当たった。だがこの人気が続くとは思えない。今後もバレエファンを増やしていくためにどうしたらいいのか。
ただこの動画で、私も一度生の舞台を観たいと思った。それは確かだ。