『「“右翼”雑誌」の舞台裏』
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右翼雑誌編集部の「最右翼部員」が真っ当なことを言い出すのが興味深い
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
吉田豪・評『「“右翼”雑誌」の舞台裏』梶原麻衣子[著]
「『右翼雑誌』の歴史と功罪」について『WiLL』と『Hanada』に在籍した「元編集部員が語る」新書。その女性編集者は「『ネトウヨ』と呼ばれる前の『ネット右翼』というカテゴリに属していたという自覚がある」人物で、「編集部の中でも、思想的に私が最右翼」だったとのこと。というか、あそこまで極端に偏った雑誌を作っている「編集者の少なくとも半分はノンポリ、あるいは教条主義的な左派は好まないがどちらかと言えばリベラル寄り、といった具合の政治思想の持ち主もいた」というのがまず意外だった。
この2誌を生んだ花田紀凱編集長が実は思想的に右なわけではなく、刺激的で面白い売れる雑誌を作ろうとしているだけらしいことは本人の発言からうかがえるが、編集者も似たようなもので、中で最も右の著者が「右の言説だけをいかに大量に読んでも、片翼飛行では全体像から何が欠落しているのかに気付くことはできない。気付かないまま知ったかぶっていたとしたら、こんなに恥ずかしく、恐ろしいことはない」と反省し、「右派であること、保守的な思想を持っていることは何ら恥じることはないが、『偽情報やフェイクを信じている』となれば反省しなければならないし、雑誌であれ執筆者であれ、こうした傾向に対しては注意を促すべき」と、すごく真っ当なことを言い出すのが興味深い。
そして、「労働条件の悪さで言えば、右の『WiLL』編集部か、左のリテラ編集部かという状況だったらしいことも付け加えておきたい」「過酷な労働環境は人を政治闘争に駆り立てるのかもしれない。自らの不遇に対する不満や不安を政権にぶつけるか、高給取りのメディア(関係者)や対外勢力にぶつけるかの違いがあるだけの相似形だった可能性がある」という考察にも不思議な説得力があって、世の中を良くするためには労働環境の改善が最優先だなと思い知らされた次第なのである。