関脇だった「力道山」にプロレス転向をすすめたのは「GHQ関係者」だった! 新たな力道山像に迫る一冊

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力道山

『力道山』

著者
斎藤 文彦 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784004320463
発売日
2024/12/24
価格
1,056円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

黒幕はGHQと「プロレスの父」

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)


力道山(Wikimedia Commonsより)

碓井広義・評『力道山──「プロレス神話」と戦後日本』斎藤文彦[著]

 昭和のプロレスを語る際に外せないのが、力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木という3人のスーパースターである。中でも馬場や猪木の師である力道山は別格の存在だ。

 斎藤文彦『力道山 「プロレス神話」と戦後日本』は、新たな力道山像を創出しようとする試みといえる。力道山とは何者であり、そのプロレスとは何だったのかを探っていく。

 1950年秋、関脇だった力道山は突然大相撲引退を表明する。その後プロレスの世界へと向かうが、きっかけは日系レスラーとの出会いだといわれてきた。

 だが、著者は調査と取材によってそれを覆す。プロレス転向をすすめた人物はGHQの関係者だった。定説が出来上がったのは、戦後ニッポンの新しいヒーロー物語から戦争の気配を消し去ろうとした結果であり、神格化の始まりだった。

 本書で明らかになっていくのは、力道山は自身の力だけでヒーローになったわけではないという事実だ。「力道山をつくった人びと」がいたのである。中でも53年に放送を開始したテレビの存在が大きい。日本テレビが草創期のキラーコンテンツとして扱ったからだ。

 当時の社長、正力松太郎は「テレビの父」「プロ野球の父」であるだけでなく、テレビという新たなメディアを通じた「プロレスの父」でもあったのだ。

 力道山とは、彼にまつわるあらゆるストーリーの総体だと著者は言う。それは個の物語を超えて、昭和の日本人の物語となった。

新潮社 週刊新潮
2025年2月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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