新創刊『GOAT』に注目。ここから次の芥川賞作品が誕生?
[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)
昨年11月、小学館が文芸誌『GOAT』を創刊した。雑誌危機と言われる中、3刷、累計4万5千部というから大健闘である。
雑誌名にちなんだ税込510円という定価も好調の理由だろう。小説誌や文芸誌は値上がりが続いており、1500円に達したものもある。書籍や雑誌の価格上昇の原因のひとつに紙の高騰があるが、同誌はその点にも、再生紙を使いつつカラフルに仕上げるなどこだわりと工夫を見せている。
ジャンルを問わないという編集方針も今日的だ。先日の芥川賞受賞作、鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」を出した朝日新聞出版の『小説トリッパー』も似た方針だし、河出書房新社が2年半ほど前に新創刊した『スピン』も同様である。
この『GOAT』からも芥川賞が生まれるかもしれない。というのは、候補作選出の対象媒体に入ったようだからだ。『文學界』に「新人小説月評」というページがある。“芥川賞の下読み”とも言われる欄で、その真偽は知らないが、ここで取り上げられた作品から次回芥川賞候補作が選ばれているのはたしかだ。『GOAT』創刊号からは3作品がピックアップされている。
そのひとつ、八木詠美「ガマズミの花」がなかなかの佳作だった。30代半ばの夫婦が引っ越した新居に幽霊が出る。妻である「わたし」にははっきりと見えているのに、夫には見えない。本当は見えているのに、見えないふりを必死でしているようだ。幽霊を差し挟みながら平穏を装ううち、夫婦間には亀裂が入っていく。幽霊の解釈にはあまり幅がないように思うが、ひたひたとした筆致がいい。
芝夏子「わたしは社会」(小説トリッパー冬季号)も佳篇だ。何といってもタイトルが抜群である。目次を見て「なんだろう?」と真っ先に読みましたからね。
舞台は学童保育室。児童指導員として働く「わたし」が主人公である。「わたしは社会」は、子供好きでもなく教育や子育てにも興味のなかった「わたし」が覚醒した瞬間に漏らす言葉だ。子供を守るためには社会でなければならない。だが、個人を捨てては本当には救えない。その矛盾に「わたし」は引き裂かれる。