『賊徒、暁に千里を奔る』
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『賊徒、暁に千里を奔る』羽生飛鳥著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
鎌倉時代の都で静かに暮らす老侍。その正体は『古今著聞集』にも登場する伝説の大盗賊だった。そんな彼のもとを歴史上のさまざまな人物が訪ね、かつての盗賊時代の冒険譚(たん)を聞く。面白いのは、話に必ず謎が含まれることだ。かくして、運慶や慈円、時の上皇(!)など、名だたる面々が謎に取り組むことになる。出される謎は多彩で、評者の好みは、海賊船上というクローズドサークルでの連続殺人を扱ったものだ。ほかにも密室からの消失や、凶器の見当たらない殺人なども出てくる。
ポイントの一つは、語り手の元盗賊が皆の機嫌を損ねないよう気を使うことだろう。これにより、解くことが可能なフェアな語りとなるからだ。史実のからめかたも巧妙で、収録作のうちには、歴史上の謎が明かされるものもある。冒険譚から謎解き、そして史実との関係と、三度楽しめるということだ。
盗賊として積み重ねた悪因による悪果を、老侍は善果へと転じさせることができるのか。ぜひ第一話から順に読んで、最終話のラストでうなってもらいたい。(KADOKAWA、1925円)