『賊徒、暁に千里を奔る』羽生飛鳥著

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賊徒、暁に千里を奔る

『賊徒、暁に千里を奔る』

著者
羽生 飛鳥 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041146576
発売日
2024/11/29
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『賊徒、暁に千里を奔る』羽生飛鳥著

[レビュアー] 宮内悠介(作家)

 鎌倉時代の都で静かに暮らす老侍。その正体は『古今著聞集』にも登場する伝説の大盗賊だった。そんな彼のもとを歴史上のさまざまな人物が訪ね、かつての盗賊時代の冒険譚(たん)を聞く。面白いのは、話に必ず謎が含まれることだ。かくして、運慶や慈円、時の上皇(!)など、名だたる面々が謎に取り組むことになる。出される謎は多彩で、評者の好みは、海賊船上というクローズドサークルでの連続殺人を扱ったものだ。ほかにも密室からの消失や、凶器の見当たらない殺人なども出てくる。

 ポイントの一つは、語り手の元盗賊が皆の機嫌を損ねないよう気を使うことだろう。これにより、解くことが可能なフェアな語りとなるからだ。史実のからめかたも巧妙で、収録作のうちには、歴史上の謎が明かされるものもある。冒険譚から謎解き、そして史実との関係と、三度楽しめるということだ。

 盗賊として積み重ねた悪因による悪果を、老侍は善果へと転じさせることができるのか。ぜひ第一話から順に読んで、最終話のラストでうなってもらいたい。(KADOKAWA、1925円)

読売新聞
2025年1月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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