『ゼロからわかる!ビジネスで使いこなす!マーケティング大全』
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【毎日書評】「マーケティング」の概念はわかるけど…仕事に活かせない人に贈る基礎知識
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『ゼロからわかる! ビジネスで使いこなす! マーケティング大全』(中川功一 著、ナツメ社)の著者はもともと大学で教鞭をとっていた経営学者で、現在は「やさしいビジネススクール」というオンラインスクールの主宰者。自身の会社を持つ経営者でもあり、さまざまなビジネスパーソンと関わってきたのだそうです。
そんななか、「マーケティングの概念については理解できたし、重要性もわかっている。しかし、自分の仕事のなかで実際にどう使いこなせばいいのかわからない」という声を聞くことが少なくなかったのだとか。
そこで、経営学の一分野であるマーケティングの知に誰もが触れられるようにとの思いから書かれたのが本書。なお、コンセプトになっているのは以下の“3本柱”だといいます。
① 重要用語を網羅し、マーケティングの全体像を伝える→マーケティングが「わかる」
② 実例や図解イラストをふんだんに盛り込む→マーケティングに「興味・関心を持つ」
③ ビジネスの現場での活用法まで提案する→マーケティングを「現場で使いこなせる」
(「はじめに」より)
注目すべきは、単に「おもしろかった」を思われるだけでなく、「この本のおかげで成果が上がりました」と思ってもらえることをイメージして書かれているという点。
基礎的な事項や必須用語をひととおり理解したうえで、これからの時代のマーケティング活動を成功させるにあたって知っておきたいことまでを知ることができるというのです。
きょうはそんな本書のなかから、「マーケティングとはなにか?」を理解し、「マーケティングの基本戦略」を知るうえで重要な意味を持つ用語について解説された第1章「マーケティングの基本」に注目。2つのトピックスを抜き出してみたいと思います。
マーケティングとはなにか?――顧客思考
本当に必要とする人に届け、人生の幸福度を上げてもらう(24ページより)
「顧客思考」は、マーケティングにおける基本概念というべきもの。しかし、そもそもマーケティングとはなんなのでしょうか?
この疑問について、著者は次のように述べています。
「必要なものを本当に必要としている人に、正しい価値を伝えて、取引を円滑に成立させるための取り組み」と言えます。
この「本当に必要としている人」という部分が重要で、要らない人に売りつけるのでもなく、無理やり重要を創り出すわけでもありません。自分たちの商品サービスを受け取ることで「幸せだなあ」と人生の幸福度を上げてくれる――そういう人々へ商品サービスを届ける仕組みがマーケティングなのです。(25ページより)
マーケティングが学問として成立してから約100年が経ちますが、その概念が世の中に普及するのは1950年代あたりから。ちなみにそれまでの企業は、自分たちのつくりたいものをつくり、自分たちに都合のいいように販売していました。その販売についてのスタンスは「お客様志向」ではなく、あくまで「生産者志向」だったということです。
これに対して、経営学者のピーター・ドラッカー氏が、著書『マネジメント』(アメリカでは1973年、日本では1974年に出版)の中で「企業の目的は顧客の創造である」と定義しました。この言葉は「新規顧客を増やす活動や、顧客の価値実現に貢献すること」を意味しています。(25ページより)
1970〜80年代のアメリカ経済は、日本をはじめとする他国に“負けっぱなし”でした。そんななか、ドラッカー氏はアメリカ企業に対して「自分たちの商品サービスがナンバー1だと信じて疑わない」と痛烈に批判。
それが契機となってアメリカ企業は、「生産者志向」で推し進めてきた企業経営の誤りに気づき、企業本来の役割である「お客様志向」の企業経営へと転換を図ることができたわけです。(24ページより)
マーケティングとはなにか?――マーケティング・マイオピア
お客様が買いに来たものは、ドリルではなく穴である(26ページより)
マーケティングの発展史の黎明期において、上記の「顧客思考」とともに提唱された重要な概念が「マーケティング・マイオピア」です。
「マイオピア(myopia)」は日本語で「近視眼」という意味ですから、「マーケティング・マイオピア」は「マーケティング近視眼」と訳されます。フィリップ・コトラー氏、ピーター・ドラッカー氏と並び称されることもある、ハーバード・ビジネススクール教授や『Harvard Business Review』の編集長の経験があるセオドア・レビット氏(1925〜2006)が提唱した概念です。(27ページより)
第二次対戦後のアメリカではモータリゼーション(自動車の大衆化)や航路の整備が進んだ結果、それまで旅客や輸送の中心的役割を果たしてきた鉄道が衰退の一途をたどりました。
その理由についてセオドア・レビット氏は「鉄道会社が自社の事業を近視眼的に捉え、「鉄道サービスを提供すること」と定義していたからだと指摘しています。
もしも鉄道業界が顧客ニーズに沿って考え、顧客の求めが「遠隔地に移動すること」や「遠隔地に荷物を届けること」だと気づけていたら、衰退は防げていただろうということ。
セオドア・レビット氏の名言の1つに「ドリルを買いにきた人が欲しいのは、ドリルではなく『穴』である」があります。これは彼の著書『マーケティング発想法』(1968年)の中に記された言葉です。ここに「顧客思考がなぜ必要なのか?」の答えが詰まっています。(27ページより)
生産者志向では、自分たちが持つプロダクト、サービスでできることで考えてしまうことになります。つまり近視眼になることを避けられないわけです。したがって、それを避けるためには、顧客ニーズから逆算して“自分たちがやるべきこと”を考える必要があるということです。(26ページより)
右ページに見出しやイラスト、左ページに詳しい解説という構成によって、知っておきたいことがコンパクトにまとめられた一冊。マーケティングの知見をビジネスの現場で活かすために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
Source: ナツメ社