『編むことは力』
- 著者
- ロレッタ・ナポリオーニ [著]/佐久間 裕美子 [訳]
- 出版社
- 岩波書店
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784000616751
- 発売日
- 2024/12/09
- 価格
- 2,970円(税込)
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<書評>『編むことは力 ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる』ロレッタ・ナポリオーニ 著
[レビュアー] 小林エリカ(作家・マンガ家)
◆世代超え受け渡された叡智
編むことは力。まさにそれを体現して立つこの本は、編み物について、その創世記から、フランス革命や世界大戦を辿(たど)る“歴史書”である。と同時に、エコノミストであり熱心な編み手でもある著者が、その祖母から受け継いだ編み物とその力を持ってして、困難と絶望のただなかから、人生を一目一目編みなおし、ふたたび立ち上がってゆく物語でもある。
編み物をとおして祖母から孫である著者へ受け渡されてきた、叡智(えいち)に、言葉に、私は目を瞠(みは)る。フランス革命のパリで、広場に椅子を運び込み、ギロチンの周りに陣取り、編み物を続けた女たちのこと。第1次世界大戦中の灰色の塹壕(ざんごう)に、色とりどりの編み物の靴下を届けた女たちのこと。その靴下からはじまった愛のこと。
「男たちによって書かれてきた近視眼的な歴史は、女性たちが感知できない、重要でない存在であるかのように、関心を払わずに進んできた。けれど、今、編み物の檻(おり)はついに開き始めた。私たちはカギを見つけ、真実は溢(あふ)れ出している」
そうだ、女たちの歴史は、こんなふうにしてこれまで母から娘に、祖母から孫に、女たちから女たちに、伝えられてきたのだったよな、けれど、それが男たちの「歴史書」に書き留められることはなかったんだよな、けれど、いま、ここに、この本に書かれ、ここにあるんだ! ということに、私は記念碑的な感動を覚えずにはいられない。
私の祖母も年中休むことなく編み物をしていた。祖母は著者がいうところの、「常に生産的であるように育てられた」女だった。私は、文字の読み書きもおぼつかなかった私の祖母の編み物を、叡智を、言葉を、理解できなかったし、理解しようとしなかったことに、ようやく気づく。けれど、人生を、社会を、編むこと、世界をつなぎあわせることに、遅すぎることはない、と信じながら、私はおぼつかない手で編み棒を握りしめる。
(佐久間裕美子訳、岩波書店・2970円)
イタリア出身のエコノミスト。邦訳書に『人質の経済学』など。
◆もう一冊
『みんなで世界を変える! 小さな革命のすすめ』佐久間裕美子文、米村知倫絵(偕成社)